音楽ライターとしてキャリアをスタートし、国内外で音楽プロデューサーとして活動している松尾潔さんのTHE CHANGEに迫る。【第2回/全2回】

松尾潔 撮影/河村正和

 今の日本の音楽界について思うことですか?

 今年5月に『MUSIC AWARDS JAPAN』という、日本で初めての国際音楽賞が開催されました。アジア版のグラミー賞を作るんだという意気込みのものです。

 恒久的投票者として参加を要請された僕は、『MUSIC AWARDS JAPAN』の運営側に、ある提案をしました。大きな社会問題となったジャニーズの性加害問題を経て、初めての大きな音楽賞であることから、「日本の音楽業界人は、あらゆる性加害を容認しない」との声明を出すべきではないか、というものです。

 ジャニーズ児童性加害問題は、日本のエンタメ界を根本から揺るがしましたし、メディアとの共犯関係もあった非常に重大な事案です。そもそも、アジア版のグラミー賞を目指すならば、音楽人として、時代へのメッセージを訴えないと、このような新しいことをやる意味がないと思ったんです。

 僕は再三訴えたのですが、運営側は「本当ですね。松尾さんの言う通りですね」とは言うものの、結局、何の声明も出されませんでした。

 奇しくも同時期に、ブルース・スプリングスティーンが英国でのライブで米大統領を名指しで批判し、ブライアン・イーノはイスラエル軍にクラウド技術を提供するマイクロソフトを指弾しました。世界の音楽人は社会への問いかけとともに創作に臨んでいるわけです。

 ところが『MUSIC AWARDS JAPAN』では、受賞者、司会、プレゼンターの誰からも社会的な発言はありませんでした。