芸歴半世紀以上、俳優・柄本明の人生は、幼いころから演劇で彩られてきた。映画に憧れ、劇団を立ち上げ、いまもエンタメの第一線で活動し続けるとともに、下北沢に根を張って芝居を続ける。柄本明の人生をつくってきたTHE CHANGEとは――。【第1回/全4回】

柄本明 撮影/有坂政晴

「他にやる演目がなかったのかな(笑)。まあでも、お客様から支持があったのなら、再び上演できてうれしいです」

 この秋、柄本の主演舞台『また本日も休診~山医者のうた~』が2025年10月23日から11月2日まで東京・明治座で上演される。昭和50年代の那須高原を舞台に、自由気ままな医師の見川鯛山を主人公にした人情喜劇で、2021年以来、4年ぶりの上演になった。
 
「原作に触れたのも、たまたまなんですよ。亡くなったうちのかみさん(俳優の角替和枝)の友達が那須に別荘を持っていて、遊びに行ったら本が並んでたんですよね。それが鯛山先生の本で面白くて。でも実はそれより前に、森繁久彌さんが朗読劇にされていて、そのときは鯛山先生の本だと知らないで聞いていたんです」

 柄本が演じる見川鯛山は実在の医師で、無医村だった那須高原で戦後開業医として働きながらエッセイや小説を執筆、そのユーモアたっぷりの日々をつづった『田舎医者シリーズ』がドラマや朗読劇になってきて、今回も舞台化。医者の仕事はそっちのけで趣味にうつつを抜かす鯛山先生と村の住人たちだが、那須の山にリゾート開発計画が立ち上がる。自然を守るべきかどうかの葛藤にも直面したりと、コメディにとどまらない物語だ。