“映画って、こういうふうに観るものなんだな”と

「映画『女の子ものがたり』(2009年)の撮影が地方であったんですけど、セリフが関西に近い方言で、関東育ちの私からすると、同じ関西弁でも地方によって微妙に違うはずなのに、全部が同じように聴こえてしまって難しかったんです。でも、そのニュアンスを台本に一生懸命書きこみながら、イントネーションやセリフを覚えていきました。
 私も当時は年齢的にもキャリア的にも未熟で、できないことだらけ。滞在期間中は撮影が終わると、夜に宿泊先のホテルのロビーで女性プロデューサーが読み合わせのリハーサルをしてくださいました。この時、“この段階でまだ台本を持っているなんてあり得ない。もう覚えていないとおかしいことだから、絶対に持ってこないで。持ってこなくても大丈夫なくらいにしなさい”と、たくさん叱責されたんです(苦笑)」

──すごく厳しかったんですね。

「はい。監督も厳しかったです。本当に厳しいお父さんとお母さんがいるみたいな感じでした(笑)」

 そんな撮影が続く中、撮休日にその女性プロデューサーから「映画を観に行こう」と誘われた。そこで観たのが『おくりびと』(2008年)である。『おくりびと』は元チェリストの納棺師が、その仕事を通して様々な死と向き合い成長していく姿を描いたヒューマンドラマで、第81回アカデミー賞で日本映画史上初の外国語映画賞、及び第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した作品でもある。

「当時17歳で、今みたいにスマホもなく、マネージャーの同行もなく、一人で地方ロケに行っていたんです。撮休の日にその女性プロデューサーと二人でシネコンに行って観たのが『おくりびと』でした。観終わった後、“あなたはこの映画から何を受け取りましたか”といったやり取りをして、“映画って、こういう風に観るものなんだな”と。私の中で映画の観方が変わった作品になりました」