20代で書いた曲の中に“いまのことを歌っていたのか”と思うような曲もある
ーー同作の中でも、THE YELLOW MONKEYのドラムのANNIEさんが「散々“生と死”を歌ってきたけど、重みが変わったよね」と言っていました。昔書いた歌詞に"いま”を乗せて歌ったとき、そう感じたんでしょうか。
「でも不思議なんですよ。元気なとき、20代で書いたイエローモンキーの曲の中に、“いまのことを歌っていたのか”と思うような曲もあるし。僕は歌詞の中に“ライフ”という単語が多いんです。だからライフ=生きることを自然に求めていたのかもしれないし。
年齢も50代だし、若いときのようなエネルギーやロックのパッションとか恋愛なんてのもないし、歌うネタがちょっと年寄りくさいものになっちゃうなあとか思っていたんですけど、逆に僕に足りなかったものに気づけたんです」
ーーそれはなんでしょうか。
「病気になったことで、“素直に歌うこと”が自分の中で許せるようになったというか、気恥ずかしくなくなったんです。病気になり、“人の命は永遠じゃないよね”ということを知ったときに書く歌詞が、僕の中でリアリティを持ったから」
©2025「みらいのうた」製作委員会さらにもうひとつ、知ったことがあった。
「もちろん感情の揺れ動きはありますよ。だって、“よりによって喉にがん……! ほかのところならいくらでもいいのに……!”と思っちゃいますし、まあよくはないんだけど。だからこそいま、新しいボイストレーニングを行っているんですが、病気になった当初に前からあった歌うときの悪い癖みたいものが見つかって。それで、前は得意だったのにできなくなったことはあるけど、昔できなかったことがいまできるようになったりもしているんです。だから、ありがたいなとも思えるんですよ」
前向きな言葉ももちろん、素直に口をついて出てきたように思える。歌う姿も、こうして話す姿も。我々はさまざまなシーンで“新しい吉井和哉”に出会えるのだ。
写真:横山マサト
ヘアメイク:Cana Imai
スタイリスト:Shohei Kashima(W)
(つづく)
吉井和哉(よしい・かずや)
1966年10月8日、東京生まれ。1971年、5歳のとき事故で父が死去。小学校入学後に母の郷里である静岡に引っ越す。10代でベーシストとして加入したURGH POLICE解散後の1988年、22歳の頃にTHE YELLOW MONKEYを始動。翌1989年から現メンバーのラインナップとなり活動が本格化すると同時にボーカリストへ転向する。1992年のメジャーデビューを経て、1995年にリリースした5thアルバム『FOUR SEASONS』が初のオリコンチャート1位を獲得、ブレイクを果たす。2001年に活動休止(2004年に解散)。2003年よりYOSHII LOVINSON名義でソロ活動を開始し、2006年からは吉井和哉名義に移行。2016年1月8日、THE YELLOW MONKEY再集結の発表。2020年4月に予定されていた東京ドーム2daysが新型コロナウイルスの蔓延のため中止に。翌年のソロツアー中に喉の不具合によりツアーを中断、後に喉頭がんと診断される。治療を経て復活のステージの場に選ばれたのは2024年4月の東京ドーム公演となった。その後10thアルバム『Sparkle X』の発表とそれに伴うツアーも成功させた。現在もソロ、バンド両方での精力的な活動を展開している。
【作品概要】
映画『みらいのうた』
全国公開中
監督:エリザベス宮地
出演:吉井和哉
©︎2025「みらいのうた」製作委員会
配給:murmur 配給協力:ティ・ジョイ
映画公式HP:mirainouta-film.jp
SNSアカウント X・Instagram:@MIRAINOUTA_film