監督はまんまと「EROさんに釘付けになっちゃった」

 吉井さんの地元・静岡に住むEROさんだ。

「僕をこの世界に導いてくれた人」と表するEROさんとは、吉井さんが高校生のときにアルバイトをした喫茶店の先輩として出会った。最先端の音楽通っぷりや美学で固めたファッションやインテリアセンスにも惹かれ、のちに吉井さんはEROさんのバンド、URGH POLICE(アーグポリス)にベーシストとして加入する。
 その後、吉井さんは上京し、EROさんは静岡に残りカントリー・ミュージックに目覚めるが、ふたりは交流を続けていた。

©2025映画「みらいのうた」製作委員会

 今回、監督のエリザベス宮地さんに引き合わせたのは、「おもしろくなりそうだと思って」。そして、「この半年前に脳梗塞で倒れて、たいへんな生活の援助もできるかなと思った」からだった。宮地さんはまんまと「EROさんに釘付けになっちゃった」という。だからこそ同作のクライマックスは、脳梗塞を患いつつも懸命に弾き語るEROさんと、バックに徹する吉井さんとの、静岡の小さな教会でのライブシーンだった。

「監督に紹介したのは、僕があの部屋が好きだからというのもあって。EROさんはデザインセンスがすごくあるんです。1度、“インスタとかでそういうのをアップしてみたら?”みたいなことを言ったら、全っ然真っ向から否定されて。“そういうのは一番キライだ”と。あの部屋は、映画の中での優秀なセットのひとつだと思うんです」

 ふたりがEROさんの部屋で“ダベる”シーンは、当時のふたりを知らない観客でさえ、当時のままの空気感を捉えることができる。その背景には、「師弟関係みたいなものが、アーグポリスがなくなったあとも続いていたから」という根強い関係性があった。

ーー一方は静岡、一方は東京で。しかも吉井さんは、ロックスターとして輝きを放っていました。EROさんは、なにか思うところがあったのでしょうか。

「EROさんはEROさんで、自分で選んで静岡に留まって好きなカントリーをやっていたわけだから。メジャーシーンに対して “俺はああいうことはしたくねえ”と言うような人だから、“おまえは大変だな。まあがんばれよ” みたいな感じでした。冗談で“いいなあおまえ、モテるだろう。おれにもちょっと回せよ”みたいなことはよく言っていました(笑)」