いま、歌舞伎界でもっとも注目されているといっても過言ではない女方がいる。中村米吉さんだ。昨年10月に『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に初出演すると、その可愛らしい顔立ちと話し方が話題となり、「米吉さん」というワードがツイッター(現・X)トレンド入りしたほど。さらに”喋りすぎる女方”の異名を持ち、SNSのライブ配信や単独トークショーを行い、やわらかで上品な語り口からこぼれる少々の毒っ気が、ファンを沼に誘っている。そんな米吉さんの「THE CHANGE」とは。【第3回/全5回】

中村米吉 撮影/松野葉子

 午後4時すぎ。西日のほのかな橙色が、中村米吉さんの顔に差すここは、双葉社の屋上。撮影するために足場の悪い屋上に立ってくれた米吉さんが、遠くのビル群を眺め、ぽつりとつぶやいた。

「世をはかなんだ人は、ここに来てはいけないね」

 思わずうっとりとしてしまうほど美しい言葉選びは、悲観的な話題であることを忘れてしまうほどだ。400年以上の歴史を持つ歌舞伎の世界で生きているからこそ、そうした審美眼が根づいているのだろう。

 ただ、米吉さんは言う。「400年以上続いている理由の一つかも知れませんけれど、歌舞伎のお稽古は中々に大変ですよ」と。米吉さんは9月からの歌舞伎座・秀山祭九月大歌舞伎の昼の部、『祇園祭礼信仰記 ー金閣寺ー』で「雪姫」を演じる。雪姫は、歌舞伎の「三姫」と呼ばれる女方の大役だ。

「たとえば、古典の役をもらうでしょう? それで、以前にその役をやったことがある先輩のところへ訪ね、“教えていただけませんか”と稽古をしていただくんです。教わったことを自分の体に慣れさせるとき、主になるのが、どうやって先輩のやり方に沿うか、ということ。そこに、自分の解釈が入る余地は基本的にはないんです」