約1年を費やした訳詞「日本版ならではの情緒だったり、登場人物が背負っているものが浮き上がってくるといいな」

 楽曲の訳詞は、昨年の秋、オーディション用に数曲を書き上げた。

「そのときは、それぞれワンコーラス分だったこともあって、バーッとアイデアが出たんです。この調子だったらどんどん書けるかも、と思ったんですが、考えれば考えるほど、情報量が増えれば増えるほど難しくて……」

 劇中に歌われる楽曲は、約20曲。ブライアン・アダムス&ジム・ヴァランスによるオリジナルのエッセンスを大切にしながら、耳に心地よく、歌詞の意味を変えずに日本語に置き換える作業は、想像以上に過酷だった。

「より良い訳にするために、とにかく調べまくりました。辞書はもちろん、ChatGPTにも“この言葉の類語はどんなのがある?”って相談したし、とにかく引き出しという引き出しを全部ひっくり返して、ベストな訳詞を目指しました」

 その間、彼は翻訳作業だけに没頭できたわけではない。毎日、映像作品の撮影や舞台があるなかで時間を捻出(ねんしゅつ)し、コツコツと仕上げていった。

「何度も“どうして訳詞をやるって言っちゃったんだろう……”と頭を抱えながら、結果的に約1年を費やしました。オリジナルの英語の作品では見えてこなかった、日本版ならではの情緒だったり、登場人物が背負っているものが浮き上がってくるといいな、と思っています」