中村吉右衛門のストイックな姿

ーー「きみはこんなもんじゃないだろう?」という意味で、褒めない、と。

「吉右衛門のおじさまご自身がそうだったから。あれだけの方でもね」

 二代目中村吉右衛門といえば、人間国宝だ。そんな巨星でさえも、先代である初代中村吉右衛門の存在を突きつめ続け、その姿を米吉さんをはじめとする後輩たちは、見ていたのだ。

中村米吉 撮影/松野葉子

「まあでも、励みになることを言われるのはうれしいですよね。たとえば以前、男と女を行き来するというややこしい役をやりました。その稽古の際に相手役のお兄さんに“男から女へ、ガラっと変わるのではなく、にゅ~っと変わってごらん。難しいよ。でもねあなたならできるでしょ”と言われまして。その言葉が、すごく胸を打ったんです。“ああ、お兄さんには、私はそれができると思っていただいているんだ”と。難しいことですが、それをどうにかクリアしたい!と思いました。」

ーーそれはうれしい言葉ですね! 期待が込められているのがわかります。

「あと、7月25日まで大阪・道頓堀の松竹座で『関西・歌舞伎を愛する会 七月大歌舞伎』を公演中で、『吉原狐』というお芝居を、松本幸四郎お兄さんとやらせていただいているんです。出演が決まったときに、幸四郎お兄さんから“あなたとやりたいと思っていた”と言っていただいて、とてもうれしかったんですよね。なんてことない言葉だけど、頑張らなきゃいけない! と奮起しました」