20歳のときに出演した映画『カンゾー先生』で一躍、脚光を浴び、日本映画に欠かせない俳優となった麻生久美子さん。演じる役柄の幅は広く、シリアスからコメディまで演じこなし、二児の母親となった最近では、母親役を演じることも多い。俳優として多様な顔を持つ麻生さんだが、そこにはさまざまな「CHANGE」があったようだ。【第1回/全5回】

麻生久美子 撮影/三浦龍司、ヘアメイク/ナライユミ、スタイリスト/井坂恵(dynamic)

藤竜也さん相手だからできたアドリブ

 取材当日、麻生久美子さん(45)はオフホワイトのふわっとしたワンピースであらわれた。今回、出演する映画『高野豆腐店の春』での豆腐のイメージか。シンプルで軽やかながら、中身はしっかり詰まっていて味わい深い。それは実力派俳優である、麻生さん自身のようにも思われた。

 そんな麻生さんが今回、演じるのは、藤竜也さん(81)が演じる頑固な豆腐職人、高野辰雄のバツイチの娘・春。藤さんとは1997年の映画『猫の息子』以来の共演となる。

「脚本を読んだときも、すごくあたたかいお話だなと思ったんですが、完成した作品は素晴らしいキャストの皆さんのお芝居で、より良くなったと感じました。広島の尾道が舞台というのもあると思うんですけど、藤さんとの親子の関係性が思っていたよりもグッとくるというか、2人の関係性がよく見えたというか、藤さんのお芝居でそう感じる部分が多かったのかも」

 劇中、2人で酔って商店街を歩くシーンで、春が辰雄と腕を組むシーンがあるが、これは麻生さんのアドリブだったそう。それだけ、芝居の中で親子関係がしっかりと築けていたのだろう。

©『高野豆腐店の春』製作委員会

お父さんってこういう存在?

 麻生さんは小学生のときに両親が離婚しているため、この映画のように父親と一緒に暮らした記憶があまりないという。

「今回、藤さんがお父さん役で親子をやらせてもらって、すごくうれしかったですね。もし一緒に暮らしていたら、こういう関係性なのかなとか。映画のとおりにはならないでしょうけど、お父さんってこういう存在なのかな、みたいなことを思っていました」

 今回の映画は親子の関係性が軸となっている。麻生さんは藤さんと親子を演じていて頭に浮かんだのは、母親のことだった。

「いろいろな人が、誰かのことを思っているというのが、描かれている映画なんです。私はこの映画を見たときに、母親のことを思いました」

 現実の麻生さんの親子関係はどういうものなのだろうか?

「昔とは大きく変わってはいないんですが、いつの間にか自分が大きくなって、ちょっと逆転してしまった部分はありますね。人として尊敬している部分は変わらないんですけど、これからどうやって支えていこうかなみたいな、ちょっと考えさせられましたね」