レースでの「心の重要性」
当時、ある意味でブルーオーシャンだったハードル競技。そこに為末さんの身体的、性格的な傾向がマッチした。1998年、日本学生選手権の400メートルハードルで優勝。2000年にはシドニーオリンピックに出場を果たす。
為末「ハードルに転向してから4年。22歳でオリンピックに出ようと考え始めて、紆余曲折がありましたが、なんとか出られたという感じでした」
入賞が期待されたが、為末さんは予選で転倒してしまい、準決勝進出を逃してしまう。しかし、オリンピックで得られたものは大きかった。
為末「五輪本番でメダルを取ったのはランキングの上位の選手ではありませんでした。それを見ていて、速く走れる能力と、本番で力を出せることは別の話なんだと思いました。
速く走ることは客観的に評価し改善可能ですが、、その日に力を出せるかどうかは心の問題です。そうなるとどう鍛えればいいのかわからない。心ってなんだろうって、考え込みましたね」
為末さんの著書には『熟達論』(新潮社)をはじめ、心について説いたものが多くある。その始まりはこのシドニーオリンピックでの経験があったのだろう。
為末「もうひとつ大きかったのは、オリンピックが4年に1回だけのものだと、あらためて気づいたことですね。オリンピックで力を出せるようになるにはオリンピックに慣れることが必要なんですけど、4年に1回しかありません。どうしても無理なんですよ」