世界的ファッション誌『VOGUE』の表紙に立ち会い

「井上さんの作品だけじゃないんですけど、喜劇をたくさんやったんです。アメリカやヨーロッパの作品も。それを僕はずっと見ていました。先輩たちの姿をね。それが僕のベースになっているんです。
 僕の演技のセンスの基礎と言っちゃうとオーバーですけど、でもそうしたセンスを含めて、いろんな下地が磨かれたのは、劇団『テアトル・エコー』での先輩たちを見ていたからなのは間違いないです」

 神谷さんの話には、幾度も劇団『テアトル・エコー』への、そして当時の先輩たちへの感謝の思いが口をついて出てくる。大ベテランとなった今でも「初心忘るべからず」の気持ちが意識せずともあるからこそ、ここまでの存在になったのだろうと強く思わされる。

――お芝居でのセンスは最初に入った劇団「テアトル・エコー」での影響が大きいとのことですが、写真撮影のポージングも決まっていました。写真を“撮られる”ことを会得した瞬間はありますか?

「そうですね。僕がFMラジオの『ベストリクエスト』という番組をやっていたとき、ファッション誌の『VOGUE』の表紙の撮影に立ち会ったことがあるんです」

――おお! 『VOGUE』の。

「そう。何て言ったかな。外国のすごく有名な、モデルも歌手もやってた方だったんだけど、その方が来日するということで、ポージングを拝見したんです。そしたらもう、カメラマンがパッと構えて、モデルのポーズがドンドン変わっていく。その途中ふっと止まるとガガガ!ってシャッターが切られる。
 芝居でプロの世界に入ったときと同じくらいの衝撃を受けましたね。もう目を見張っちゃって。だから写真を撮られるときに、ちょっとだけポーズを変えるというのは、そのときにちょっと学んだかな」

 そういってニコっとほほ笑んで見せた神谷さん。彼は“撮らせる”プロでもあったのだった。

神谷明(かみや・あきら)
1946年9月18日生まれ、神奈川県出身。冴羽商事代表。日本を代表するレジェンド声優のひとりであり、歌手、ナレーター、タレントなど幅広く活躍している。1970年に劇団「テアトル・エコー」に入団。声優として活躍中の所属俳優が多かったことから、声優としての活動を開始した。北条司による同名漫画をアニメ化し、87年よりテレビ放送がスタートした『シティーハンター』で演じた冴羽リョウを、自身でもっとも好きなキャラクターと公言する。2023年9月8日より『劇場版シティーハンター  天使の涙(エンジェルダスト)』が公開中。