若い頃から脚本にも意見して、書き直したりする事もありましたから

 若い頃から脚本にも意見して、書き直したりする事もありましたから。それは一朝一夕に始まったことではなく、生まれつきの性質なんだと諦めています。でも、そういえば『月』の石井裕也監督の脚本に関しては、今まで一度も直したり、意見をしたことがないんですよ」

 オダギリさん自身、監督も脚本も手掛ける。自身が特に商業作品を手がけるようになって、見方が変わったりはしたのだろうか。

「自分で脚本を書くようになって見えてくることも実際あるとは思います。でも仕事柄、これまでかなりの数の台本を読んできましたからね。だから、脚本を読む力はそれなりに培われて来たと思っています。その上で、石井さんの脚本には直したくなる点がないんです」

 冒頭の「養成所の頃から芯は変わっていない」という発言はどういうことなのだろうか。もう少し聞いてみる。

「役者の勉強をしていく中で、“芝居の本質”みたいなものが自分の中ではっきりしたんです。だから、役者の仕事をしながら見つけていく、ということはなかった。なので役者としての“変化”というのはないんです」

 養成所という、いわば役者としてのスタート時点で“芝居の本質”が分かったと言うオダギリさん。そんなことがあるのだろうか。

「いや、なんて言うんだろう。“本質”がわかったと言ってしまうと大げさですけど、何の世界でもゴールにあるのは、結局自分の方法論を見つけることじゃないですか。僕は養成所で学んでいた頃に、役者としてやらなきゃいけないことや、芝居に対する準備の仕方など、目指すものは見えたんです。あとはそこに向かって実行していくだけというか。

 だから、僕の役者としての志は、昔も今も全く変わっていないんです」

 フラットで穏やかながらブレない芯が、オダギリさんの奥にはっきりとある。

オダギリジョー(おだぎりじょー)
1976年2月16日生まれ。アカルイミライ』で映画初主演。以降、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、『ゆれる』(06)、『悲夢』(09)、『宵闇真珠』(17)など作家性を重視した作品に出演し、国内外の映画人からの信頼も厚い。19年、『ある船頭の話』で長編映画初監督。第76回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に日本映画史上初めて選出され、同年『サタデー・フィクション』(日本公開は11月3日)がコンペティション部門に出品。待機作に「僕の手を売ります」(全10話)がFOD/Amazon Prime Videoにて10月27日(金)より配信開始。

■作品情報 
『月』10月13日(金) 全国公開
■出演:宮沢りえ、磯村勇斗、鶴見辰吾、原日出子高畑淳子、二階堂ふみ、オダギリジョー
■監督・脚本:石井裕也『茜色に焼かれる』『アジアの天使』
■原作:辺見庸
■音楽:岩代太郎
■企画・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
■配給・制作プロダクション:スターサンズ
■制作協力:RIKIプロジェクト
■コピーライト:(C) 2023『月』製作委員会