メイク、大嫌いです。興味がないんです。

 それは今に限ったことではなく、幼少期から備わっていたという。

「小さい頃からわりとそうだったけど、高校受験までは親の言いなりだと思ってやってきて、高校に入った時点で親もそんなにうるさいことを言わなくなったし。それでもう“好き勝手できるんだ”って思った瞬間、特にやりたいこともなかったんですよ。自分で決めなきゃいけないんだ、って。意思というものを持ち、AかBを選択しなきゃいけない、と思ったら、できれば1日中寝ていたいんです。目が覚めたくないんです。それは16歳くらいからずっと続いています」

ーー1日中だらっと寝ている日があると、幸せですね。

「いや、これがまた寝られないんですよ。寝付きが悪くて、寝たいのに寝られないって、それもめんどうくさいんですよ。常に“寝なきゃ寝なきゃ”って強迫感に晒されているし、寝たら今度は“起きなきゃ”って眠りについた瞬間に脳が起きることを考えているんです」

ーーそれはつらいです。

「眠りも浅いし、その辺を曖昧に、だましだましごまかしながら、とりあえず生きています」

ーーメイク、いちばんめんどうくさくないですか?

「大っ嫌いです。興味がないです。若い頃は自分でもある程度はキレイだと思うくらいになっていたけど、この年になるとあの頃と比べてすべてにおいて劣化しているので。そこで競おうと思うこともないし」

ーー恋をしているときも、めんどうですか?

「恋!?」

ーー恋です。

「してないですね……。いちばんめんどうくさい。めんどうくさいからしない。久しぶりに聞きましたよ、恋」

 かつてミッツさんは、岡村靖幸さんとの対談『岡村靖幸 結婚への道 2nd season』(『GINZA』2015年4月号)で、恋をすると「尽くして養うタイプ」と話していた。過去の発言を改めて聞くと、「そうですね」と肯定しつつ、赤裸々に続ける。

「養われることはまずないし、それは、性欲を満たすための交換条件です。“肉食わせたんだから、ヤラせて”って」

ーーとてもシンプルですね。

「でもこの国って、愛情や肉体関係はお金で解決できないことになってるじゃないですか。私は物やなにかで買っているっていう。でもいまは、そんなこと自体ないです。本当に目とかも見えないんですよ」

ーー目?

「目が悪くて、誰が誰だか、よくわからないんですよ。そうすると、特にときめくみたいなことがなくなってくるんです。なんとなく霞んで見えるから。“この人、イイ”みたいなのも、昔に比べたらなくなっているしね」

 めんどうくさい、と言いつつ、取材を終え立ち上がってから「ごはんとか、どうしていますか?」と聞くと、「ウーバーかコンビニ。決まっています。4、5個のローテーション。だからもう、AI様々です」と、やはりゆったりとした口調で教えてくれた。

 マネージャーさんがこっそりと「無愛想な男でごめんなさいね」と耳打ちしてくれたが、そんなことはなく、ミッツさんの根底にある優しさが、常ににじみ出ていたのだった。

ミッツ・マングローブ
1975年4月10日生まれ、神奈川県出身。幼少期をロンドンで過ごし、帰国後、慶應義塾高校に入学。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、英国ウェストミンスター大学コマーシャルミュージック学科へ留学する。20代中盤より、新宿二丁目でドラァグクイーンとして活動をスタート。『5時に夢中!』(TOKYO MX)、『スポーツ酒場 語り亭』(NHK BS1)、『GINZA CASSETTE SONG』(BS-TBS)にレギュラー出演中。2005年に同じく女装家のギャランティーク和恵、メイリー・ムーとの女装歌謡ユニット「星屑スキャット」を結成し、2012年に『マグネット・ジョーに気をつけろ』で配信デビュー。精力的にリリース、全国ライブツアーを行っている。