失敗を受け入れる覚悟はできています

 そのキャリアや実績なら、監督やコーチの道に進むこともできるはず。起業よりは、指導者になるほうが成功確率は高く、安全な人生にも思える。

「起業にも、確かにリスクはあるのでしょうね。生きていくうえで安全や安心は、もちろん大切。だけど、苦しくとも乗り越えてみたい。そんな思いを抑えきれずに、思い切って経営の世界に飛び込みました。人生一度ですから…。人は、いつかは死ぬ。それならば、好きなことをすればいいんじゃない? と自らに言い聞かせています。

 自分が本当にやりたいことをするだけですよ。僕は、これまでの人生の節目で “もう無理”と限界を決めていたら、今のようにはならなかったはず。子どもの頃、プロのサッカー選手になりたい、と宣言していました。大人は“なれるわけはないから、やめなさい”と言う。だけど、プロのサッカー選手になったんです。今度は“プロの世界では活躍はできないよ”と言う人がいました。それでも、日本代表になることができた。

 これらは、単純に自分がやりたいことをできるようにがんばっただけのこと。成功確率で言えば、子ども心にわかっていましたよ。プロになるのは難しいのは。まして、日本代表はプロの中でも一握り。それでも、やるだけ。そうなりたいのですから」

 多くの人には、そのような実力はないのかもしれない。そして、失敗が怖い。

「夢を実現するためには、ある程度の実力があることに加え、運やタイミング、時代状況などいろいろと影響するのかもしれませんね。僕も、変わるのは実は怖いんですよ。だけど、必要以上に考えるのは好きじゃない。つまらないでしょう? 計算できる人生なんて。失敗を受け入れる覚悟はできています。

 サッカーは、ミスのスポーツ。僕のせいで負けた試合もあります。責任を感じ、あきらめたくなることもある。それでもずっと続けると、“長くがんばったね” と認められるんです。途中で自分ができない理由を探して “もう、やめよう” としていたら、こういう人生をきっと歩んでいなかったでしょうね」

 さわやかに淡々と語りながらも、勝負の世界で生きてきた男の厳しい目を見せる。チェンジし続けることのおもしろさや怖さを、この後も聞くことができた。

■鈴木啓太(すずき・けいた)
1981年、静岡市生まれ。中学は東海大一中に在籍し、全国中学校サッカー大会優勝。高校卒業と同時に2000年、Jリーグ浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)に加入。ポジションは、MF。2006年~2008年は日本代表となり、唯一全試合に先発出場。2015年に引退するまで、16年間浦和レッズで活躍。
 2015年には腸内細菌の可能性に着目し、腸内フローラ(腸内細菌の生態系)解析事業を行う研究開発型のベンチャー企業・AuB(オーブ)株式会社を設立。45競技1000人を超えるトップアスリートの腸内を研究し、酪酸菌など約30種の菌を配合した、腸内環境をケアするサプリメント「aub BASE」と、プロテイン「aub MAKE」を開発・販売をする。
 トップアスリートの腸内の分析データから独自の特徴を発見し、製薬会社や食品メーカーとの共同研究や自社製品開発を行う。スポーツ、ヘルスケアビジネスの分野でもコンサルティング、講演を続ける。2020年10月からは、YouTubeチャンネルを開設。チャンネル登録者数は2023年11月現在、25万を超える。