亡き兄について

 サムソン宮本さんは死を冷静に受け入れているように見えるが、実際はどうだったのだろう。

「撮影開始時に、本人は死が近いことをすでに心得ていたはず。2017年に腸に悪性の腫瘍があることが発覚していたんです。『余命3か月』と宣告されるシーンがありますが、あのように死を冷静に受け止めていたように思います。死にしっかりと向かい合い、理解したうえで最後まで人生を完全燃焼しようとしたのではないでしょうか。

 夢や思い描いていたことを具現化し、達成できた。一時期離れていた家族が戻った。たくさんのファンも集まってきた。多くのプロレス団体が試合をする東京の新木場で、2019年に大会を開くこともできた。もう、自分がすべきことをひと通りやり遂げた心境に達していたんじゃないかな。 闘病中、特に印象に残る出来事は亡くなる1か月前のこと。民放の全国放送の番組で、我々のプロレスの収録があったんです。皆でリングを組み立てると、サムソンはいてもたってもいられなかったのか、リングに上がり、ロープワークや受け身を全力でするんです。もう、ボロボロの体ですよ・・・。最後の最後まで、プロレスが好きなんだなと感じました」

 新根室プロレスの選手たちが私生活を含め、紹介されている。心身の状態を悪くしていたり、家族を亡くし、元気を失い、ゴミ屋敷にひとりで住む人もいる。

「選手たちは全員が社会人ですから、ふだんはそれぞれ仕事をしています。だから、試合の最後には全員で“無理しない ケガしない 明日も仕事!”とお客さんと一緒に元気よく叫んで終わる。みんな、冴えない青春を送ってきたんです。僕を含め、大人になってからも、どこか冴えない(笑)。

 サムソンは優しい性格で、困っていたり、弱っている人を見ると、ほかっておけないタイプ。弱い人と知り合うと、声をかけたりして仲良くなる。本人の希望があればリングに上げて、スポットライトを当てて輝かせたい。そんな思いが、きっとあったんでしょうね。だから、メンバーには弱い立場の人が多いのではないかな」

個性豊かな選手たち 映画『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス』より