経験や実績、見識などを買われ、社長や会長に就任し、らつ腕をふるうプロの経営者。いわゆるサラリーマン経営者が会社員としての成果や実績、人事評価や社内力学でトップに立つのに対し、プロの経営者は「実力」を認められ、抜擢される。一方で、創業者やその一族、古参の番頭などから煙たがれ、手足を縛られることも多い。
東大卒、経営コンサルタント出身で、数々の会社の社長や会長を歴任してきたプロの経営者の上田谷 真一さん(株式会社三浦屋 取締役会長)に「THE CHANGE」を深堀りした。【第3回/全5回】
前回(その2)で、「自分は頭でっかちで、会社の現場のことをわかっていない。これではいけない、といった脅迫観念を持っていた」と話していた。どういうきっかけで変わったのだろうか。
「その意味での大きな転機の1つは20代半ばの頃から、経営コンサルタントの大前研一さんと10年弱働いたことです。当時、大前さんがコンサルティング会社・マッキンゼーを辞め、様々な事業を企画設立する大前・アンド・アソシエーツグループ(現ビジネスブレークスルー社などの母体)を設立した頃で、私は幸いにも声をかけてもらって、創業メンバーとして参画したのです。
大前さんは当時、国内外で圧倒的な名声を持つ経営コンサルタントでしたから、コンサルタントの端くれだった私としては誘ってもらってとてもうれしかったのですが、いざ働き始めると(当然ながら)怒られてばかりでした。たとえば新規事業を立ち上げる際、コンサルタント出身者としてはまず、徹底して調べます。たとえば本や雑誌、各種のレポート、論文を読んだり、その業界に長くいたり、精通している人に話をうかがったりしてファクトを集める。そのうえで問題点や課題を導き、解決に向けての自分なりの仮説を立てるのです。
それを大前さんに説明するのですが、怒られる。もう、怒られてばかり……。たとえば、“業界の人間には聞くな。それでは、新しいものなんて生まれない。まったくゼロから、白紙から考えるんだ!”。
月日が流れ、今振り返るとわかるのですが、おそらく、調べて分析したことの延長線上に必ずしも解答があるけではない、とおっしゃりたかったのでしょうね」
なるほど。だが、ある程度の情報や知識がないと、ゼロから考えるのは難しいようにも思える。
「実は、この話にはオチがあります。大前さんは“自分はふだんから死ぬほどに考えているから、いざという時にとっさにアイデアが出てくる。唐突なひらめきじゃない!”とも話していました。結論を導くときには、調べて分析したことの延長線上の解に固執しない。よりよきものにするためには、ときには延長線上から飛んでしまう場合もある。こんなことを教えてくださっていたのではないか、と思います。
大前さんから怒られながら学んだことはいずれも強烈な経験であり、その後、経営者として経営に携わるうえで大いに役に立ちました。たとえばせっかく異業種から来たのだから、その業界や会社、社員をリスペクトしつつ、ゼロベースで考えてみようと思うようにしていたのです」