自分ができないことをできる人と組む
ほかに、大きな影響を受けた人はいるのだろうか。
「その後、黒田電気と言うエレクトロニクスの会社で海外事業の担当役員をするのですが、ここでも貴重な経験をしました。当時は30代前半で、まだ頭でっかちコンプレックスがたっぷりあった時期です。実際にある程度の規模の事業会社に社員として入ったのは初めてで、最初の頃は浮きまくってました・・・(苦笑)。
その頃、叩き上げの営業トップの役員の方と密に働くようになって、頭をガツンと殴られた感じがしました。はじめてお会いした時は、正直に言えば保守的で怖そうだな、と感じたのです。よくよく仕事を見ていると、すごい!と思いました。たとえば、一番きつい商談に、率先して行って頭を下げ、その姿勢を部員たちに見せる。顧客企業に対してもメールを送ればすむような時にもわざわざ出向き、直接説明し、自ら電話でフォローをする。これで、相手の心をぎゅっとつかみ、商談を成功させる。
頭でっかちだった私としては、当然こういうのは古臭くてムダな仕事の仕方だと思っていましたが、結果的には極めて合理的な手法であり、ムダなんかじゃありませんでした。ただ自分には到底敵わない。。つまり、自分ができないことをできる人と組まないと仕事にならない、学ぶことも成長することもできないと確信しました。
幸い恐る恐るもその方の懐に飛び込むと、すごく可愛がってくれて、いろんなことを教えて頂けるようになりました。接待のための、ゴルフの特訓まで休日に付き合ってくださるようになったのです。その後も様々なことを教わりました。
この時の経験を通じて、工場、物流拠点、営業所等の最前線で働く方々敬意を払ってぶつかることで、関係を作る経験を体で覚えられました。自分にはない技術や経験を持っている重要な人達に対し、現場で自分がどういう立ち振る舞いをしないといけないのか、してはいけないのか、どんな言葉や表現で、何を話すべきなのかー。これらは、この時期に叩き込まれた気がします。
取締役会で戦略をぶちまけるよりも、最前線の現場の方たちに理解してもらって動いてもらう方が重要だし大変です。数字も上がりませんしね」
戦略やロジカル思考を身につけようとする会社員は少なくないが、見落とされがちなことを教えられている気がする。
■上田谷真一(うえだたに・しんいち)
1970年生まれ。1992年、東京大学経済学部を卒業後、同年からブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PwCコンサルティングStrategy&)にて経営コンサルティングに従事。1995年に、経営コンサルタントの大前研一氏が率いる大前・アンド・アソシエーツの設立に参画し、企業の新規事業開発などに関わる。2003年から、黒田電機にて海外事業担当役員。2006年にディズニーストア社長、2009年よりクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン社長、2012年にバーニーズジャパン の社長。2017年にTSIホールディングスの社外取締役に招へいされ、2018年に社長に就任。 2021年社長を退任。現在は、株式会社三浦屋の取締役会長。
■「三浦屋」(みうらや)
安心・安全で高級、高品質の品ぞろえで知られるスーパーマーケット。2024年に創業100周年を迎える。杉並区松庵や吉祥寺(武蔵野市)や国立市、小金井市、新宿区飯田橋などに7店舗を展開。国内外の旬な生鮮食品から、話題のプライベートブランドまで、上質で健康的な食生活品を常時1万種類以上提供する。各店舗では地域の人たちのニーズを満たす品をそろえるなど、きめ細かなサービスを提供する地域密着志向でもある。