ふりこをふるために、自分はここに来た

 改革をすると、損をする人たちもいる。その人たちを刺激しないように、穏便に事を進めることもできるような気がする。それでもなぜ、挑むのか。

「大前さんから、以前こんなことを教わっていました。「改革をする時は、ふりこを大きくふれ!どうせ元に戻るから大きめにふる位でちょうどいい」。これが、私が今も大切にしている1つの行動規範の一つになっています。

 改革をするうえで抵抗を受けると、こう言い聞かせていました。

「ふりこをふるために、自分はここに来た。生え抜きではない自分にしかできないことがあるはず。それらをすれば、この会社は息を吹き返し、強くなる。社員たちの置かれている状況もよくなる。お客さんも喜ぶ。

 抵抗する人たちに気兼ねし、おとなしくしているのも1つの生き方かもしれない。しかし、それでは、目の前の現実から逃げた感じがして、後々、後悔をするに違いない」

 改革に賛同してくれる社員たちも、若手や中堅を中心に増えてきました。それによってさらに使命感や責任を感じました。若手を主要メンバーにした改革プロジェクトチームに権限移譲もしました。10年後にはこのメンバーが経営をするんだと思い、彼ら彼女らに託したのです。このメンバーらも、改革プラン実行に奮闘してくれました。

 実は前の年に社外取締役が独立性の高いメンバーに交代していて、彼らが取締役会において私を強烈にバックアップしてくれたことも大きかったです。こういう支援者が増えると、苦しみがしだいにやりがいや生きがいとなっていったのです。

 その後、区切りがついたところで退任をしましたが、あの状況下でできる最大限の仕事をしたと思っていて悔いるものはありません。実際翌年は最高益を達成できました。

 あの頃は、ストレス軽減のために通勤時は、自宅から会社までの2~3キロをほぼ毎日歩きました。朝、太陽の光を浴びると、心身にはいい影響を与えるのだそうです。運動も気が紛れるので、筋トレの量も増やしていました。今も体力づくりには力を入れていますよ」

「ふりこをふるために、自分はここに来た。生え抜きではない自分にしかできないことがある」は、ビジネスの様々な現場で思い起こすべき言葉に思える。

■上田谷真一(うえだたに・しんいち)
1970年生まれ。1992年、東京大学経済学部を卒業後、同年からブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PwCコンサルティングStrategy&)にて経営コンサルティングに従事。1995年に、経営コンサルタントの大前研一氏が率いる大前・アンド・アソシエーツの設立に参画し、企業の新規事業開発などに関わる。2003年から、黒田電機にて海外事業担当役員。2006年にディズニーストア社長、2009年よりクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン社長、2012年にバーニーズジャパン の社長。2017年にTSIホールディングスの社外取締役に招へいされ、2018年に社長に就任。 2021年社長を退任。現在は、株式会社三浦屋の取締役会長。

■「三浦屋」(みうらや)
安心・安全で高級、高品質の品ぞろえで知られるスーパーマーケット。2024年に創業100周年を迎える。杉並区松庵や吉祥寺(武蔵野市)や国立市、小金井市、新宿区飯田橋などに7店舗を展開。国内外の旬な生鮮食品から、話題のプライベートブランドまで、上質で健康的な食生活品を常時1万種類以上提供する。各店舗では地域の人たちのニーズを満たす品をそろえるなど、きめ細かなサービスを提供する地域密着志向でもある。