バブル崩壊まっただなかの１９９３年。けれどもバブルの余韻だけはまだ空気に残り、トレンディドラマに夢中になれた。そんな時代が、ブラウン管の中でセピア色で再現されるとき、無意識にＢＧＭにしてしまう曲がある。あのころの日本にあまねく知れ渡ったラヴソング『Ｇｅｔ Ａｌｏｎｇ Ｔｏｇｅｔｈｅｒ』。この曲の生みの親であり、２０２３年に３０周年を迎えたシンガーソングライター山根康広のＴＨＥ ＣＨＡＮＧＥとは。【第１回／全３回】
山根康広は大ヒット曲『Ｇｅｔ Ａｌｏｎｇ Ｔｏｇｅｔｈｅｒ』以外でデビューしたかった。世はビーイング系全盛期！デビュー間もない頃、音楽評論家や関係者から、曲にはインパクトが必要。この曲は地味な歌だから難しい…と言われたという。
取材開始１０分前。山根康広さんの姿はまだない。
「昭和な男なもんで、タバコ吸いに行ってます」
マネージャーさんがそう教えてくれる。開始時刻きっちり５分前に現れた山根さんは、花柄の袖がエレガントさすら漂う黒いジャケットに、首元には柔らかなシフォンのストール、下半身は一転してタイトなブラックデニムにハードなベルト。甘さと辛さのコントラストが、とても艶やかだ。
ーータバコは紙ですか？ 電子ですか？
「紙です。やっぱり、はい。アメスピのオレンジ、吸ってます、すいません」
昭和な男、というフレーズとはギャップのある腰の低さ。一目で人柄がいいことがうかがえる山根さんは、３０年前の１月２１日、『Ｇｅｔ Ａｌｏｎｇ Ｔｏｇｅｔｈｅｒ』でデビューした。
ーーこのときはまだ会社員だったんですよね。
「そうですね。一応デビューはしたんですけど、当時は大阪にいて、"音楽ですぐに食べていけるっていうのは絶対にありえないから、会社は辞めない方がいい”と周りに言われて。平日は会社員をやりながら、土日はキャンペーンを組んだりする生活でした」
ーーどんなお仕事を？
「仮設建築をメインにしている会社で、設計とかをやっていました」
大学は大阪芸術大学環境計画学科（現・環境デザイン学科）。のちに仕事に生かすための大学選び……と思いきや、音楽のためだった。
「バンドのメンバーを探しに行ったんです。芸大系なら、音楽の趣味が合うような、いい出会いがあるかなと思って。いっぱい集まっているイメージがあったので行ったんですけど、なかなか巡り合えなくて。結局、学校外でバンドを組みました」
デビューを見据えたスカウトもされたが、「バンドごとじゃなかったり。ボーカルとキーボードだけ、とか」で、断ったことも。
「バンドでデビューしたかったので。好きなんですよ。バンドでやるのが。オーディションを受けたりもしたんですけど、なかなか難しくて。結局就職して。バンド活動ができなくなって、僕も２年くらい音楽活動をやらず、普通に働いていました」
ーーその間は一切音楽に触れず？
「曲はちょっと作っていました。徐々に昔のメンバーを集めて“ひとりでやっているから、手伝って”と声をかけて、たまにライブをやり始めるようになりました」
