元横綱白鵬。通算１１８７勝、史上最多４５回の優勝、２０１０年には６３連勝を記録するなど、記憶にも記録にも残る名横綱だ。１５歳でモンゴルから来日し、宮城野部屋へ入門。２００１年３月場所で初土俵、それから６年で横綱に昇進し第６９代横綱を襲名。２０２１年９月場所で現役を引退し、１３代目宮城野を襲名した。都内にある宮城野部屋で２０年の土俵人生で経験した「ＣＨＡＮＧＥ」を聞いた。【第１回／全４回】
１月１４日から、大相撲初場所が始まっている。
初場所の見どころは、昨年九州場所で２回目の優勝を果たした、大関・霧島の「綱取り」。場所前の稽古では、充実の内容を見せた霧島の新横綱誕生におおいに期待がかかるが、受けて立つのが、「一人横綱」の照ノ富士だ。
東西に横綱が揃うことが当然とされた大相撲界で、長く「一人横綱」を務めたのが、白鵬（現・宮城野親方）だった。２０１０年、横綱・朝青龍の突然の引退を受けて、「一人横綱」になった時の心境を、「果たして、横綱の責任を自分一人で追えるのだろうか？ “できれば逃げ出したい”と思ったくらい」と、白鵬は振り返る。
４５回の優勝も、どれもがドラマがある
身長１８９センチの大きな体に清潔感のある白いシャツを着た宮城野親方は東京の墨田区にある宮城野部屋でインタビューに答えてくれた。
２０２１年名古屋場所を最後に土俵を去り（引退発表は９月）、現在は宮城野部屋の師匠として、２０余名の弟子の指導にあたっている。宮城野親方の土俵人生は、優勝４５回、横綱在位８４場所、通算１１８７勝など、栄光に満ち溢れている。けれども実際は、不安と葛藤に悩む日々だった。
「２０年間の土俵人生の中で、思い出に残る一番を挙げるのは、とても難しいんですよ。それと、４５回の優勝も、どれもがドラマがあって、“この時の優勝が一番！”とは言えないんです」
宮城野親方は、しばし考え込む。
２００１年春場所、力士になった白鵬にとって、つねに目標としていた存在が、母国モンゴルの先輩・朝青龍だった。十両に上がった頃は、厳しく稽古をつけてもらい、横綱・朝青龍と２度目の対戦（０４年九州場所）を果たす。
「とにかくこわい存在でしたからね。朝青龍関と対戦できる地位に自分が上がってきたこともうれしかったのですが、攻めて、攻めて、最後は送り出しで勝つことができたことが、本当にうれしかった。初めての金星（平幕が横綱を倒す意味）になりました。
これまで鍛えていただいた兄弟子に勝つことを（相撲界では）『恩返し』というのですが、朝青龍関に恩返しができたこと、そして、“がんばれば、横綱に勝てるんだ！”と思ったことは、すごく大きかった。
自信を持てた…というのかな？ この一番は私の転機になったことは間違いありません」
弱冠１９歳。翌場所、白鵬は新三役の座を手に入れた。
