演じる際に気を配ったことは「声と体です」

――器に入っていく、というお言葉、とても面白いです。役者さんからは「とにかく準備期間が大事だ」というお話を多く聞きます。準備をしっかりして、現場ではそれを忘れてまっさらな状態で立つ、ということでしょうか。

「自分が器に入り切れば、もう何も考える必要がなくなります。それがゴール。今回も沙苗の中に入れたと思う瞬間がありました。あとは現場で感じたことを取り入れて修正していくだけになります」

――今回、実際に演じる際に気を配ったこと、気づいたことはありましたか?

「声と体です。沙苗は、一見相手に向けて喋っているシーンが多いんです。言葉も、相手に何かを伝えようとしているはずのもの。主張しているはずの言葉。
 それなのに、沙苗の声にはハリがなくて、自分の世界の中だけに落ちていっているような、結局相手はいらないんじゃないかと思える感じの声なんです」

――監督との話し合いで出てきた感覚なのでしょうか。

「そうですね。沙苗の声は覇気がなくて、息の分量が多い。そういった“声”や“音”に関しては、監督と話し合いながら作っていきました」

――もともと橋本さんは、声を出す技術には自信がなく、それをトレーニングで克服していった、とお話されていました。だからこそ表現できたことですね。

「そうですね。ある程度、自分がこういうものがいいな、と思う声を出せるようになってきたので、今回の沙苗に関しても、監督に相談しながら、力の出力も加減しつつ、意識して演じていくことができたと思います」

 毎回、浮かんだことを手で紙に書きながら役の詰め作業を行い、演じる役の「声」に意識を馳せる。俳優という仕事の繊細さについて、理知的かつオリジナルな答えを、ていねいに答えてくれた橋本さん。

 インタビュー最後の撮影では、モデルとしての圧巻のオーラとポーズを披露し「ありがとうございました」と、ふたたび明るい笑顔を見せて、取材は終了した。

 カラフルで多様な橋本愛は、これからも人の心を楽しませてくれるはずだ。

はしもと・あい
1996年生まれ、熊本県出身。中島哲也監督の『告白』(10)に出演し注目を浴びる。続く吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』(12)などで第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)で圧倒的な人気を獲得する。近年の主な出演作は、映画『PARKS パークス』(17)、『ここは退屈迎えに来て』(18)、『私をくいとめて』(20)、『ホリックxxxHOLiC』(22)など。『ザ・フラッシュ』(23)では実写吹き替え声優に初挑戦した。ドラマ出演はNHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)、「家庭教師のトラコ」(22/NTV)、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」(23)、「アナウンサーたちの戦争」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(23/NHK)など。公開待機作に『ハピネス』(5月17日公開)がある。10月には神奈川県民ホール開館50周年記念オペラ「ローエングリン」でエルザ役を務める。俳優・モデルの他、音楽活動や写真、コラム連載をもち幅広く活躍中。
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:清水奈緒美

●作品情報
映画『熱のあとに』
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司
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配給:ビターズ・エンド 
公開:2月2日(金)