脚本になかった泣くシーン何かを超えられた瞬間

――塚原監督から学んだことで、特に心に留めておこうと思っていることをひとつ教えてください。

「最終話で僕がマウンドから退場するところ。僕はあのとき涙を流しているんですが、あそこは脚本では泣くシーンではなかったんです。本当は、やりきった笑顔のなかに、ちょっと悔しさがあったらいいねくらいの感じのシーンだったんです。でも悔しすぎて涙が止まらなくて。泣きすぎて3回くらいやっても、泣いて泣いてどうにか泣かないようにと抑えてやったのがあの場面だったんです」

――そうだったんですね。

「塚原監督から、お手紙をいただいたのですが“最終話での退場のシーン、思うようにならなかったと思うけれど、それがお芝居のすばらしさだし、楽しさだよね”といったことが書いてありました。脚本を読んで考えながらお芝居をしていくけれど、実際にはそうじゃなくなるほうがリアルだし、そのほうが何かを超えられた瞬間なのかなと。そういった瞬間をたくさん見せられる俳優になれたらいいなと感じました」

――演じながら、心が揺さぶられた感覚がありましたか?

「スタンドが観客でいっぱいで本当のブラスバンドもいて、敵の攻撃のなか、音がぶわ~っと鳴っているなかで投げる。そんななか、“タイム!”と言われた瞬間、音がパッと消えて“退場!”と言われた。あの時のふわって感覚が、僕自身が野球をしていた時のこととリンクもして、段取りで一番泣いてしまいました。交代してセンターに行ってからも泣いていて。カットがかかって、ベンチに戻っても泣いて。こんな感情になるんだと思いました」

――その感覚は覚えておきたい。

「はい。全く同じ感情を辿ることはないし、同じ芝居ももうできないけれど、思いがけない感情になる瞬間の感覚というのは、覚えておきたいと思っています」

 “何かを超えられた瞬間”だったという涙のシーンは、見ているこちらの感情も揺さぶられた。新たな感覚を得た兵頭さんの今後がさらに楽しみだ。

ひょうどう・かつみ
1998年4月15日生まれ、福岡県出身。2018年、GYAOとAmuse共同実施のオーディション、第1回「NEW CINEMA PROJECT」の出演者部門でグランプリを受賞。翌年、『五億円のじんせい』で俳優デビューを果たし、同年の特撮テレビドラマ『騎士竜戦隊リュウソウジャー』カナロ/リュウソウコゴールド役でテレビ初出演、注目を集める。23年、ドラマ『下剋上球児』で演じた根室知廣役でブレイク。ほか主な出演作に映画『消せない記憶』『愛のゆくえ』、ドラマ『ブルーバースデー』『ドロップ』『ドラフトキング』『CODE-願いの代償-』など。主演映画『18歳のおとなたち』が公開中。さらに『みーんな、宇宙人。』が控える。

映画『18歳のおとなたち』
監督・編集:佐藤周 脚本:磐木大
出演:兵頭功海、三原羽衣、黒田昊夢、久田莉子、黒田アーサー、中島知子、雛形あきこ
(C) ゴールデンシネマ
配給:TOHOシネマズ新宿ほか 公開中