素晴らしい日本のアレンジャーの才能

 自分の楽曲が、新たに使われることに抵抗はないのだろうか。

「まったくないですね! 面白いことをやっているなって思っています。でも、楽曲の権利は会社が持っているので私が“やっていいですよ”とは言えなくて……。それがちょっと残念だなって感じています。私の方は“どんどんやっちゃえ”って言いたいのですけどね(笑)」

 アナログレコードブームもあり、80年代に発売された楽曲のレコードが高値になっている。年月を経て当時の楽曲が評価されることを、「アレンジが素晴らしいからだ」と語る。

「私のアルバムも、イギリスやヨーロッパで人気があると聞きます。私達が欧米の音楽に憧れて、“アメリカっぽいね”とか“これイギリスっぽいでしょ”って言って作った作品が、逆に海外で聞かれるようになると、ちょっと複雑な気持ちもありますね(苦笑)。 
 逆輸入というと変かもしれないですが、憧れて作った曲が本場で評価されているのは嬉しいです。多分、メロディーがしっかりしているのと、アレンジが優れていたからじゃないかな。日本のアレンジャーの才能は素晴らしい。日本では抑揚をつけて歌わない。メロディーの覚えやすさを優先していたから、1コーラス目からサビまで同じ歌い方をしていたんです。欧米では曲の中で歌い方がどんどん変わるけれど、日本のアーティストは変えないので、アレンジャーが頑張って曲を展開していく。だからアレンジャーの力がある時代だったんじゃないかなって思っています」

 八神さんと言えば、伸びのあるハイトーンボイスが魅力だが、意外にもボイストレーニングなどはほぼ受けていないという。

「トレーニングをやろうとレッスンを受けてみても、イメージしていたのと違っていたので長続きしなかったんです。ヤマハのボーカルタレントコースにも所属していたのですが、ロバータ・フラックがどれだけ歌が上手いかっていうことを知ったくらい(笑)。自分で歌った曲を聴いて、反省すべきところは反省して、伸ばせるところは伸ばしていくために独学でトレーニングしていましたね」

 ファンとのサイン会などでも「歌います」とよく言われるという八神さんの楽曲たち。どういう部分が親しまれているのだろうか。

「カラオケブームの時代があったから、いまも歌い継がれていったのだと思います。楽曲のメロディーを追うだけだと、そんなに難しいことではないと思うんです。そこに、気持ちを乗せて抑揚をつけるのは違ったレベルになっていく。でも私も今と昔では歌唱法が変わっています。昔はささやくように歌っていました。だから、いまのYOASOBIのようなビートが効いた曲と、昔の楽曲もテンポを上げて繋げたら似ているので違和感がないんじゃないでしょうか」