本格ミステリーの作家はミュージシャンと似ている!?

昌弘「本格ミステリーの作家は、権威を持ちたいとかいうのがあんまりなくて、その部分ではミュージシャンと似ているかもしれない。自分の好きなものを作らせてほしいという意識しかなくて、自分の作風が好きだっていうファンのことも見えているので」

翔吾「川西さんもそっち派ですか? 自分の好きなものを作りたいという」

川西「いえ、まったく何にも考えてないです(笑)。でも、昔で言ったら、『日本レコード大賞』とか、そういうものにノミネートされたり、そこを目指してくださいねっていう風潮はいまだにあるんじゃないかな」

翔吾「そういう賞は、昔に比べたら若干下火っぽいイメージがあるけど、やっぱりパワーはあるんですね」

川西「僕はまったく関係ないと思ってるけどね。それよりも、自分たちがライブで演奏したときのお客さんとの空気感がいちばん大事だから。でも、作家の方はライブで何かを見せることがないでしょ。そこがいちばん違うよね」

昌弘「作家としては、自分の作品がどう読まれているのかは知りたいんですよ。本格ミステリーを書いている作家はホント恵まれていて、うるさいことを言うファンもいるんですけど、その人たちは横の繋がりがあったりして、サイン会をやるとたくさん来てくれる。ダイレクトに声が伝わってくるんですね。自分たちは、こういうファンに向けて書いているんだ、っていう心構えを持ちやすいんです。でも、それ以外の作家の方は見えにくいかもしれないですね。やっぱり、賞にノミネートされたりして話題にならないと、自分のファンがどこにいるのかわからないと感じている作家の方は多いと思います。結構すばらしい経歴をお持ちの方でも、新刊を出すときは“誰がこれを読んでくれるんだろう”って心配されてますね」

翔吾「僕は結構ライブっぽく書いているタイプなんですよ。昨日も新聞連載のラストのほうをほぼ徹夜で書き上げていて……歴史小説ってネタバレしているんで言いますけど、主人公の楠木正行が……死にます(笑)。なので、死ぬ前の15枚を書くってなったら、僕は昔ダンスをやっていたので、心を整えて、舞台に上がるみたいに音楽聴いてテンション作っていきますね」

昌弘「ミステリーは最後にどうなるかわからないけれど、歴史小説を書く作家さんは、みんなが最後どうなるか知っているのに書いているのがすごいですよ」

川西「ホントそうなんだよねえ」

翔吾「調べてもらえれば、何年何月に死ぬっていうのがだいたいわかりますからね(笑)。読者が“あと2週間で死ぬよ”とかSNSで書いてたりする。ただ、僕らはそこに行くまでを、どの角度でどう見せるかという演出をしていくわけです」

(つづく)

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。