人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞し、コメンテーター、書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。毎年恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第6回/全8回】
ユニコーン・川西幸一×直木賞作家・今村翔吾×ミステリー作家・今村昌弘のトークバトル【THE CHANGE特別鼎談】を最初から読む
川西幸一(以下川西)「時代小説って漢字が多いし、読むきっかけがないと難しいでしょ。官名とか幼名があったら名前がコロコロ変わったりするし、女性の名前が全部“お”なんとかだったりしてややこしい。でも、そのくらいだから、ホントは難しいことはないんだけど」
今村昌弘(以下昌弘)「そのあたりってミステリー小説についても同じことが言えるんですよね」
川西「昌弘さんの作品は、わりと登場人物の名前が個性的だよね」
昌弘「ダジャレにしてこじつけたりしてます」
今村翔吾(以下翔吾)「僕が以前に出した『茜唄』という本は平知盛が主人公なので、登場人物のほとんどが“源”か“平”ですからね(笑)。それでだいたい名前に“盛”が付くし、わかりにくいんですよね。ミステリーにもそういうのはありますか?」
昌弘「密室で人が死ぬっていうトリックが今までたくさん作られてきたんですけど、作家の側も、読者にはある程度のミステリーの知識があるだろうという前提で書いたりしますね」
翔吾「例えば、本を読んでたらいきなり血しぶきが飛んでるページとかが出てきたりっていうのはない? あと、半分くらい読み進めるとQRコードが出てきて、“それではこの音楽をお聞きください”とか指示があったり。そういう新しいことはやってないのかな」
昌弘「作中作に関しては“血しぶき” はありそうだし、音楽が流れる仕組みは、道尾秀介さんがもうやっていますね」
翔吾「昔は、ミステリーだったら100ページ以内に殺せとかってよく言っていたでしょ。それがどんどん短くなってるっていうのは聞いたことがある。時代小説も同じで、背景があって事件が起こるんだけど、その背景を描いていたら若い読者は離脱してしまうんですよ。だから15ページ目くらいで、ポーンと事件を起こすっていう工夫はしてる。みんなそういうのに慣れてしまって、まったり100ページ何にもないと、ちょっと遅いなあと思ってしまう世の中なんですよ」
昌弘「本当かどうかわからないけど、新人賞の選考はそういうので落とされるなんて聞きますね」