母親と3日間、口をきかなかった理由

ーー周囲に流されないんですね。

「そうですね、つるむことも好きじゃないんですが、それもやっぱり自問自答する。“俺は一匹狼としての牙をなくしてしまったのか?”と。Xにポストしたりもするんですけど、けっこう本気で思っていて。群れの中で調子に乗る人がイヤで、そんな人を見ると“一人のときも調子に乗れよ”と思うから、一人でできないことは群れの中でもしないでおこうと思っています」

ーー……かっこいいですね。

「そういうの、ダサいと思っちゃうんですよね」

クロちゃん 撮影/有坂政晴

 信念を曲げず、けっして流されないクロちゃんだが、両親の姿に衝撃を受けたことがあるという。

「うちの親、夜中にけっこうケンカするんですよね。お互いにすごく怒っているのに、翌日の朝、母親は何事もなかったかのように普通にしているし、父親も普通にしている。僕だったら引きずるし、一生口を利かないくらいなのに。“あんなにケンカしたのに、なんなんだろう!?”と思って。それで母親に聞いたんです。そうしたら“次の日になったら、普通にしておきたいものだから”って」

ーー信念を曲げないクロちゃんには、あまりない感覚かもしれませんね。

「そうなんです。腹が立っているんだから、腹が立っていることには変わりないだろうに、どうしてそんなことができるんだろう? と」

ーーそんなご両親に影響を受けて、クロちゃんも切り替えられるようになったり?

「いや、僕はめちゃくちゃずっと怒っています。実家にいたころ、『週刊少年ジャンプ』のスクラップをしていたんですよ。『キン肉マン』だったら、そのページだけ抜き取ってまとめて。単行本も買っていましたが、それとは別にジャンプサイズの大きい1冊にしようと思って溜めていたんです。それを母親が勝手に捨てて、怒って3日くらい口を利かなかった」

ーー3日も!

「都合がいいことだけしゃべる、というわけじゃなく、本当に一切しゃべらなかったですからね」

 頑なに怒り続けたクロちゃんが、4日目に口を開いた理由は、実にシンプルだった。母が「捨てた」と言っていた、お手製ジャンプサイズコミックスを作る予定のスクラップの束、それが実は倉庫に保管してあったのだ。

「“あ、よかったー”とホッとしました。まぁ、それで実際に本を作っていたわけではないから、ゴミだと思われたのもわかるんですけどね。でも、自分のなかで“本を作るんだ”という意志があったから、そこは曲げられなかったんですよ」

 自分を信じ続けたクロちゃんを、両親はフラットに見守っていた――。それこそが、クロちゃんの自己肯定感が育まれる一因になったのかもしれない。

クロちゃん
1976年12月10日生まれ、広島県出身。2001年、団長安田HIROとともにお笑いトリオ『安田大サーカス』を結成。コワモテフェイスとギャップのあるハイトーンボイスが特徴で、近年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で大ブレイクし、「愛すべきクズキャラ」として人気を集めている。アイドル好きとしても知られ、アイドルグループ『豆柴の大群』アドバイザーとしての顔や、アイドルフェスプロデューサーとしても才能を発揮している。