「毎日、自分にとっての新しい一日を過ごしている」

 身一つで表現するダンサーとして、“人間の身体”について考えを巡らせることが多いようだ。

田中「iPS細胞の研究で知られる山中伸弥先生は、“人間の身体は、古代のまんまである”という言い方するんです。でも古代と今を比較すると1日の運動量は決定的に違います。機械化が進んだことによって、人間の肉体に対する負荷がかからなくなってきた。人間の常の営みが便利になったことで、身体が置いてきぼりを食らってしまったといえるんですよね」

 身体を動かすことの重要さを力説する田中はまた、その日をその日を大切に、全力で生きている。

田中泯  撮影/川しまゆうこ

田中「人間ですから、身体というのは、いつどうなるかわかりません。だからこそ、毎日、自分にとっての新しい一日を過ごしている意識でいます。つまり、今日は79歳と何日目という時間を生きていて、その日を迎えた“新しい自分”がいるんです」

 エッセイ『ミニシミテ』の中には、樹木希林坂本龍一など、すでにこの世を去った人たちの名前が多く登場し、〈生き物である限り、いつか死を迎える〉という一文もある。そもそも、田中泯の「泯」という字には、“消滅”とか“滅び”といった意味がある。

田中「『泯』は繰り返し繰り返し流されている者……そういう意味もあります。人間の死について考えた時、坂本龍一さんも言っていますけど、輪廻を信じるしかない……そのような感じですね。自分でできることはありません」

〈『俺には道はいらない!』と、常に思ってきた〉。本にはそう記している。しかし、今後の自分が歩いていく道についてはこのように考えている。

田中「最後の最後までワクワクして生き続けたいと思います。自分で自分の前にある──後ろでもいいんですけど、とにかく自分が置かれた環境のすべてと関わって、そして生き続けたいと。そこから離れたくない。地球から離れたくない。そう思っています」

 生きることに貪欲な田中泯の動きは止まらない。

田中 泯(たなかみん)
1945年3月10日生まれ。クラシックバレエとモダンダンスの訓練を経て、1974年「ハイパーダンス」と名付けた独自のダンス活動を開始する。1978年には、パリ・ルーブル美術館で1か月間のパフォーマンスを行い、海外デビューを果たした。1985年、山梨県の山村へ移住。農業を礎としながら、国内外でのダンス公演は現在までに3000回を超える。一方、俳優としても活動し、デビュー作となった2002年公開の映画『たそがれ清兵衛』では、初映画出演ながら複数の賞を受賞。その後、多くの話題作に出演している。2022年には、その生き様を追った、ダンサー田中泯の本格的ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』は釜山国際映画祭にノミネートされた。2024年4月からは、新田真剣佑と親子を演じた「Disney+」の配信ドラマ『フクロウと呼ばれた男』が公開。2024年3月にはエッセイ集『ミニシミテ』を講談社から出版した。

【書籍情報】
田中泯さんの著書『ミニシミテ』は講談社から発売中
​定価:1870円(本体1700円) ISBN:978-4-06-533569-7
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田中泯『ミニシミテ』