水泳選手か警察官になりたかった

 そんな市原少年は、ある時、父親と映画を観に渋谷に繰り出した。

「26年ぐらい前で小学5年生の時でした。たしか『インディペンデンス・デイ』だったかな。映画館は、いまのシネコンみたいに席が決まっているのでなく、席に座れないお客さんは通路に座って観るような時代でした。その帰りに、今の事務所のスタッフからスカウトされたんです。それで芸能界で仕事を始めました」

 まさに人生を変える出来事であった。 

「それまでは芸能界に入りたいとは全く思っていなくて、当時は警察官か水泳選手になりたいと思っていたんです。2歳から水泳をやっていたので。プロレスも大好きだったのですが、体が小さいのでプロレスラーにはなれないと思って、作文には“プロレス興行の営業マンになりたい”とも書いていました(笑)」

 芸能界は誰もが入れる世界ではない。多くの人にとっては憧れで終わってしまう世界だ。そこに関われたということは、常に夢を抱いている人間からとったら羨ましい以外の何物でもない。しかし、市原少年にとっては──。

「最初の頃は嫌で嫌でしょうがなかったんです。なんで、友達は遊んでいるのに、この芝居しなきゃいけないんだろうって、今思えば、その理由がわかっていなかったからでしょうね」

 そして、2001年に公開された『リリイ・シュシュのすべて』は市原さんにとって初めての映画であるだけでなく、初の主演作品となった。デビューしてまだ2年ほどの出来事であって、当時は相当なプレッシャーがあったのではないかと思われるが。

「それが何も考えていなかったんですよ、ほんとに(笑)。撮影が終わったら、みんなで健康ランドに行って風呂に入ったり、プロデューサーの家に泊まったり。(岩井俊二)監督もお父さんのような存在に感じていて、家族のようなチームでした。

 長ゼリフが10ページぐらいある日があったんですが、プロデューサーに“イッチー、憶えた?”って訊かれても“え、何のことですか?”って。セリフを覚えるものだと思っていなかったんです。それで丸2日かけてなんとかセリフを憶えて、撮影しました。64テイクぐらい重ねましたが、最終的には全部カットでした(笑)。それでも、みんなが温かく見守ってくれたので、撮影って楽しいなって思えていたんです。もちろん、叱られたこともたくさんありましたが、その現場が好きで好きで仕方なくなったんです」

 そして、10代後半から20代前半に掛けて、市原さんを変える大きな出来事を迎えることとなった。

市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時にスカウトされ芸能界に入る。2001年、映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務める。2004年、ドラマ『ウォーターボーイズ2』で連ドラ初主演を果たし、同年に公開された映画『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作にはドラマ『正直不動産』シリーズ、や舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』がある。近年は写真家としても活動している。6月~は主演作品・WOWOWにて『ダブルチートseason2』の放送開始。

【作品情報】
映画『おいしい給食 Road to イカメシ』
https://oishi-kyushoku3-movie.com/
監督:綾部真弥
出演:市原隼人、大原優乃、田澤泰枠、栄信、石黒賢、いとうまい子、六平直政、高畑淳子、小堺一機
5月24日㈮より東京・新宿ピカデリー ほか全国公開
配給:AMGエンタテインメント
🄫2024「おいしい給食」製作委員会