「誰一人オイラのことを見ていなかった」舞台の経験

――これまでの役者人生の中で、ご自身にとっての「変化」はありましたか?

「東京に来た頃は、劇団“第三舞台”や木野花さんとか“小劇場”と言われる人たちと一緒に芝居をやっていました。売れている人たちの芝居を観ては“こいつら歌もできてないし、踊れもしないのに舞台役者って言っているよ”とか“オイラは宇宙で一番上手い”と思っていたんです。でも、真ん中で芯を取って、長セリフを言うような主役は他の人にやってもらって、その人が脱いだ羽織を畳む“番頭”みたいな役どころが性に合っているなと、だんだん思うようになりました」

――「自分は番頭に向いている」と思うようになったきっかけがあったのでしょうか。

「野田秀樹さんに呼ばれて、舞台『虎 ~野田秀樹の国性爺合戦~』で大竹しのぶさんと白石加代子さんと共演したことがあるのですが、舞台上で2人の間に立ったときに“オイラは芯の人じゃないんだ”と思わされました。観客の全員がしのぶさんと加代子さんしか見ていない、誰一人オイラを見ていなかった。そのときから、自分はサブの方がいいな、しかも落ち着くなと思うようになったんです。

 同じ時期に、新感線の公演に劇団員以外のゲストをメインに呼ぶようになったんだけど、当時は相手役が多かったんです。そういうことを経験しているうちに、主役よりもう1ランク下の役回りでちょこちょこしている方が楽しいぞって思うようになって、そこからは今のスタンスでやっています」

 インタビューが終わったタイミングで「最近、タバコをかぎタイプや噛みタイプにしたんだよね」と言い出した古田さん。近ごろは、新幹線の車内でも喫煙所が撤去されたこともあり、かぎタバコや噛みタバコにチェンジする人が増えてきたという。「これだとインタビュー中でも分からないでしょ?」と言ってニヤリと笑い、口に入れていたかぎタバコを見せてくれた。最後まで場を和ませ、楽しい土産話を置いていく古田さんなのだった。

古田新太 撮影/三浦龍司

取材・文/根津香菜子

ふるた・あらた
1965年12月3日、兵庫県生まれ。大阪芸術大学在学中にデビュー。近年の主な出演作に、映画『空白』や、テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『俺のスカート、どこ行った?』、『不適切にもほどがある!』、NHK大河ドラマどうする家康』など多数。また、「劇団☆新感線」の各作品のほか、『贋作・罪と罰』、『リチャード三世』、『パラサイト』などの舞台にも精力的に出演している。
衣裳協力/カーディガン¥28,600、パンツ¥22,000/共にパゴン(問パゴン本店Tel075-322-2391)

●公演情報
2024年劇団☆新感線44周年興行・夏秋公演
いのうえ歌舞伎『バサラオ』
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:生田斗真 中村倫也西野七瀬 粟根まこと/りょう/古田新太 他

日程:福岡・博多座 7月7日(日)~8月2日(金)
東京・明治座 8月12日(月休)~9月26日(木)
大阪・フェスティバルホール 10月5日(土)~10月17日(木)

HP:http://www.vi-shinkansen.co.jp/basarao/