「自分が知らないところで、誰かが泣いているとか、つらい思いをしている方は必ずいる」

 そもそも、柚月さんにとって「書く」ことの意義とは何であるのだろうか。

「自分が知らないところで、誰かが泣いているとか、つらい思いをしている方は必ずいるんですよね。作中の磯川俊一のセリフ“笑ってくださいね”じゃないけど、ただただ一瞬でもいいから笑っていてほしい、っていうのは常に思っていることなんです。私自身がつらいとき、読書でごまかしながら救われてきた経緯もあるので、そういったお手伝いをちょっとでもできればなって。本を読んでくださった方が“ちょっと頑張ろうかな”と思っていただけたらすごく嬉しいです。
 だから、自分が書いている作品の結末については、読者が望んだものかどうかはさて置き、読み終わったときに、納得していただける終わり方を心がけているんです。読者の方が、ちょっとでも前向きな気持ちになってくれればなって思うんです」

 次に書いてみたいテーマについても聞いてみた。

「テーマ……というか、私の場合は“舞台”っていう方が的確だと思うんです。書きたいモノって多分、デビュー当時からいまもそんなに大きく変わっていないんじゃないかな。今作で言うと“1人の命と100人の命の対比”であったり、“光の当たるところには必ず陰がある”とか。そういうことを、深く掘り下げていくと、結局、昔からある物語も書かれていることは今とそんなには変わらないと思うんです。
 人間のつらさ、命の重さ、はかなさ、恋愛が持っている素晴らしさ……これらは多くの人が書いてきていることであって、その時代に従って表現方法が変わっているだけなんだと思うんですね。ですがその中でも、作品ごとに“この一行を書きたい”というのが必ずあるんです。それをどういう立場の人物にどういう場所で語らせたら、読者に一番届くのかなということを、いつも考えています。そう考えたら、舞台は無限にあるんだと思います」

 次回作では、どんな柚月ワールドが展開されるのか──大きな期待を抱くところである。

柚月裕子 撮影/冨田望

柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)
1968年生まれ、岩手県出身。‘08年『臨床真理』(宝島社)で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。’13年『検事の本懐』(宝島社)で第15回大藪春彦賞、‘16年には『孤狼の血』(KADOKAWA)で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編賞部門受賞)。同年には『慈雨』で「本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10」で第1位を獲得した。他の著書に『盤上の向日葵』(中央公論新社)、『合理的にあり得ない』(講談社)、『月下のサクラ』(徳間書店)、『教誨』(小学館)、『ミカエルの鼓動』(文藝春秋)、『風に立つ』(中央公論新社)などがある。

◆作品情報
映画『朽ちないサクラ』
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/
原作:柚月裕子『朽ちないサクラ』(徳間文庫)
監督:原廣利
脚本:我人祥太、山田能龍
出演:杉咲花、萩原利久、森田想、坂東巳之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子 豊原功補安田顕
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)2024映画「朽ちないサクラ」製作委員会