俳優になったきっかけはスカウト

 まず前者は、大学在学中、銀座で女性と待ち合わせをしているときにかけられた、日活社員によるスカウトの言葉だという。

「映画はよく見ていたから、“映画俳優? どういうこと?”と思わず聞いてしまいました。そしたら、"キミはいま学生でしょ? 映画俳優になるとね、100万や200万はお金の単位じゃなくなるよ”というわけです。ちょっとこれは聞き捨てならないぞ、と(笑)」

藤竜也 撮影/三浦龍司

ーーお金から入ったのですね! 意外です……!

「でもぜんぜんそういうふうにはならなかったっていうね(笑)」

ーーそういうふうにならない、というのは、すぐにお金にならなかったと。

「それが次の言葉につながっていくんですよ。“あなたには、使ってみようと思う何かがない”という言葉に。そもそも、よくわからなかったんですよ。どうすれば仕事がもらえるのか。だから撮影所で監督に直接、“私を使ってみませんか?”と言うと、“使ってあげたいと思わせる何かがない”と言われたんです」

 藤さんが直談判したのは、『殺しの烙印』や『ツィゴイネルワイゼン』などで唯一無二の映像美で圧倒した鈴木清順監督だった。

「何かがない、と言われても“じゃあ何がある? 『何か』ってなんだ? 自分は『何』がないんだ?”と思うじゃないですか。そこから旅が始まるわけです」