ふと気づいたら、木村多江はテレビや映画に欠かせない俳優として存在していた。映画では作品ごとに違った顔を見せ、テレビでは、ドラマはもちろんのこと、NHK教養番組ではナレーションやナビゲーターを務め、『LIFE〜人生に捧げるコント〜』などではコメディエンヌとしての才能を発揮。最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』では、小学6年生の息子を持つ、大阪の“お母ちゃん”を演じる彼女には、何度もCHANGEの瞬間が訪れたという──。【第2回/全5回】

木村多江 撮影/有坂政晴

 フリーランスの舞台俳優を経て、23歳で現在の事務所に所属した木村多江は、活動の場を映像の世界へとシフトしていく。テレビドラマや映画に出演し、順風満帆かと思われるのだが……。

「映像の世界にわたしは向いていない、と感じました。それまでやっていた舞台は、どんなに小さな役でも、お稽古から本番まで1か月以上ずっと一緒で、みんなで作り上げているという実感がありましたけど、映像は、(参加した当初は)自己紹介をしても名前を覚えてもらえず、テストを2、3回やったら本番。“はい、OK、お疲れさま”で終わりなんです。
 舞台は、たくさんお稽古したという安心感があったから、人前でお芝居ができたけど、映像は、なんというかとても刹那的で、不安しかありませんでした。演じることが楽しいなんて、とてもじゃないけど思えなくて」