誰もが考える「ずっと下がっていくエレベーター」

寺内:現実って不親切ですよね。人間関係をはじめ、本当のことなんてほとんど隠されているし、それを誰も説明してくれません。そうしたリアリティを追及した結果、自然と不親切な行間が生まれて、そこに皆さんが何かを感じてくれているんですよ。
植田:お客さんにわかりやすくするのが主流の中で、Qは逆にお客さんに考えさせて、視聴者側のリテラシー(ある分野に関する知識やそれを活用する能力)を上げている。これはエンタメ界全体にとっていい影響だと思います。
寺内:ただQでも、設定自体は、わかりやすいものにしているんです。エレベーターがずっと下がっていくとか、誰でも考えたことのあるようなシンプルさです。その分、ディティールを作り込むわけですが。
 ここで難しい日本神話の伝承に基づく話をやったりすると観てもらえない。このあたりは、けっこう無邪気な感じでやってますね。
 難しくてマニアックなこともやりたいんですよ。自分一人なら絶対にやっちゃう。でもここは、メンバー4人の関係性ですね。止めてくれる人が、必ずメンバーの中に一人はいる。
植田:私も相方の小田に止められます。さすがに伝わりづらい、そんなの一発目にやってはいけない、と(笑)。
寺内:手垢がつきまくった題材からオリジナリティを出すほうが、技術点が高かったりもします。
 ただ、最初はシンプルにやってたんですけど、反応があればあるほど、だんだん考えはじめてしまって、制作に時間がかかるようにはなりました。
植田:このあたりも芸人と似てますね。最初は無邪気にやっていても、やがて自分との戦いになっていく。
寺内:自分でOKを出せるレベルが上がっていくんですよね。
植田:お客さんのほうは別にハードルを上げてないのに、自分で勝手に上げていくというか。
寺内:自分で勝手にハードルを上げて、それでまた自分で崩すんですよ。上げたり崩したり…。
植田:そんな中で書籍を出すのは、ガス抜きというか、気分転換になったんじゃないですか。
寺内:そうですね。映像を文章にするだけでなく、文字だからこそできる、読み物として面白い部分を本に入れています。ただ、QRコードを読み取ると、映像を観たり、音声を聴いたりできるようにもなっています。
植田:読者も参加している感じがしますね。
寺内:読者には、一緒に、かたわらにいる感じで読んでもらえれば。

植田紫帆(うえだ しほ)
吉本興業所属のお笑い芸人。小田結希とお笑いコンビ「オダウエダ」を結成し、『第5回女芸人No.1決定戦 THE W』では王者に輝く。現在は『天才てれびくん』(NHK Eテレ)などにレギュラー出演中。

寺内康太郎(てらうち こうたろう)
映画監督、脚本家。Youtubeの人気チャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」のメンバー。作品に『境界カメラ』シリーズ、『監死カメラ』シリーズ、『心霊マスターテープ』シリーズなど多数。「フェイクドキュメンタリーQ」から生まれた初の書籍『フェイクドキュメンタリーQ』(双葉社)は予約だけでアマゾン1位となり、現在、5万5000部の大ヒット中。気になる書籍の内容は、現在チャンネルで公開されている22本のうちで再生回数の多い6つの動画の後日談や、新作エピソード2編が収録。さらに、“恐怖音声”と“恐怖動画”を体験できる12の“恐怖注意QRコード”が付いた体験型のホラー本になっている。