「うちの家族にとって、これは不思議な感情になる作品」
1985年、唐さんが兄貴と敬慕した寺山修司氏の死から2年後に「状況劇場」で初演された『ジャガーの眼』は、「状況劇場」後期の代表作であり、その後もさまざまな劇団により再演され続ける名作。大鶴さんは2014年に初挑戦した。
「ただ、うちの家族にとっては、これは不思議な感情になる作品なんですけど」
――というと?
「うちの母親とオヤジの仲が悪くなって、初めて母が『状況劇場』に出なくなった作品なんです。だから母からしたら憎き作品(苦笑)。それまでオヤジは、照れ屋で自分が主役には書いてこなかった。でも母はもう出ないと言うし。仕方ないから、自分を主役に変えちゃおうって書いたんです。そのあとすぐに離婚したんですけどね。だからうちの両親にとってのいわくつき。でもいい作品なんですよね」
なんとも達観している。
「それで田口という役が主役になった。いろんな劇団でもやっている作品なんですけど、結構中年期の役者さんはみなさん田口をやりたがる。オヤジが初めて主役をやった役でもあるので。その田口を僕がやるんです」
初挑戦から丸10年が過ぎ、さまざまな舞台を経て、役者として脂が乗った今だからこその田口に期待が膨らむ。
おおつる・ぎたん
1968年4月24日生まれ、東京都出身。父は劇作家、演出家、俳優、芥川賞作家の唐十郎。母は舞台女優でNHK大河ドラマ『黄金の日日』やドラマ『3年B組金八先生』第4シリーズでも知られた李麗仙。大学在学中の88年、主演映画『首都高速トライアル』にて本格デビューした。90年に『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。94年『東京亜熱帯』(福武書店)や11年『その役、あて書き』(扶桑社)、22年『女優』(集英社)などを執筆。
95年には『となりのボブ・マーリィ』で映画監督デビュー。企画・脚本・監督として09年『前橋ビジュアル系』や11年『キリン POINT OF NO RETURN!』など多くの作品を手掛ける。
90年代には特に映像作品で活躍。映画『湾岸ミッドナイト』シリーズの主演を務め、ドラマ『逢いたい時にあなたはいない…』や『悪魔のKISS』などで人気を集めた。2000年台以降は舞台にも活躍の場を広げ、2014年から参加の劇団「新宿梁山泊」では父・唐十郎の戯曲に挑戦している。ここ数年、さらに舞台出演が増え、昨年6作品、今年は10作品に出演予定。最新舞台は『リア王2024』。
●作品情報
舞台『リア王2024』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志(白水社刊)
上演台本・演出:横内正
出演:横内正、一色采子、大沢逸美、浜崎香帆、大鶴義丹、松村雄基、三浦浩一
主催・企画・製作:T.Y.プロモーション
2024年8月29日(木)~9月2日(月)全6回公演 三越劇場