舞台

――お土産を。

「不思議なもので、半月くらいでも役者たちが根詰めてひとつの作品に向かっていると、何かしらの化学反応が起きるんです。僕は何十億円という大作の映画にも出たことがありますし、もちろんそうした作品は、それはそれですごいんですけど、役者としては、切り取られていく感覚があるんです。

 主役とかはまた別ですけどね。映画って、どうしても作る側が主体の感覚が強い。舞台の場合は、中には“これはオレが出なくてもよかったよな”というものもあるし、自信を持って、“これやってます!”とチラシを配れないようなものもあるんだけど」

――(苦笑)

「それでも何かしらのお土産は必ずある。最初、“こいつしょうがないな”と思っていた相手役の子が突然グーンと伸びてきて驚かされて、“よし、こっちも打ち返すぞ!”となったり、稽古ではあんまりよくないと思っていたものが、お客さんの反応がすごく良かったり。ただ、今の言葉で言うと、タイパとコスパは悪いですけどね。でも今自分は子どもも大学を出て孫もいるくらいで、今からでっかい家の住宅ローンを払うわけでもないし、自由にやっていこうと」

――自由にやってみたら、主演を含む年10本ですか。なんだかんだ、やっぱり唐さんがいつも口にしていたという「三度の飯のように演劇を」状態になっていますね。

「そんなことはないんですけど。別にこれくらいだったら、毎年これでも大丈夫かなって感じですけどね」

そう言って大鶴さんは笑った。幼き日、父・唐十郎さんの劇団の稽古をNetflixのごとく、好きなときに好きなように見ていたという大鶴さん。やはり三つ子の魂百までか。

おおつる・ぎたん
 1968年4月24日生まれ、東京都出身。父は劇作家、演出家、俳優、芥川賞作家の唐十郎。母は舞台女優でNHK大河ドラマ『黄金の日日』やドラマ『3年B組金八先生』第4シリーズでも知られた李麗仙。大学在学中の88年、主演映画『首都高速トライアル』にて本格デビューした。90年に『スプラッシュ』で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。94年『東京亜熱帯』(福武書店)や11年『その役、あて書き』(扶桑社)、22年『女優』(集英社)などを執筆。

 95年には『となりのボブ・マーリィ』で映画監督デビュー。企画・脚本・監督として09年『前橋ビジュアル系』や11年『キリン POINT OF NO RETURN!』など多くの作品を手掛ける。

 90年代には特に映像作品で活躍。映画『湾岸ミッドナイト』シリーズの主演を務め、ドラマ『逢いたい時にあなたはいない…』や『悪魔のKISS』などで人気を集めた。2000年台以降は舞台にも活躍の場を広げ、2014年から参加の劇団「新宿梁山泊」では父・唐十郎の戯曲に挑戦している。ここ数年、さらに舞台出演が増え、昨年6作品、今年は10作品に出演予定。最新舞台は『リア王2024』。

●作品情報
舞台『リア王2024』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:小田島雄志(白水社刊)
上演台本・演出:横内正
出演:横内正、一色采子、大沢逸美、浜崎香帆、大鶴義丹、松村雄基、三浦浩一
主催・企画・製作:T.Y.プロモーション
2024年8月29日(木)~9月2日(月)全6回公演 三越劇場