「続編が読みたい」という声が多数届いていたが……

 2019年12月12日、自身のTwitterに第1話目を投稿した『100ワニ』。主人公・ワニくんとネズミの友情や恋模様、なんでもない日常や悩みを丁寧に描いた4コマ漫画で、必ず4コマ目の欄外に「死まであと◯日」というカウントダウンが書かれていた。
 ワニくんはそんな寿命のカウントダウンなどつゆ知らず、無為に1日をすごしたり、意中のバイト先の先輩をデートに誘うのをためらったり。日本中が最期までどうなるのか? と没入し、毎日の更新時間19:00を心待ちにしていた。
 そんな物語は、タイトル通りワニくんの死を予感させて、連載開始から100日後に終了した。当時、きくちさんの元には「続編が読みたい」という声が多数届いていたが、その後続編が投稿されることはなかった。

「描き始めたころは、残された者のその後の物語として、"ネズミのその後も描きたいな”と思っていました。どちらかというと、そっちのほうが大事なんじゃないかと思っていました。ネズミがその後、どう生きるか、という物語のほうが……。でも、まったく事実に反することで、最終話を投稿したあとにいろいろと燃えてしまって。”マンガを描いて、どうしてこんなに言われるんだろう”と思い、描きたかった気持ちに蓋をするようになりました」

ーー最終話投稿直後に、予期せぬかたちでフェイクニュースなどがネットやSNSなどで流されてしまう事態に発展してしまいました。

「それでも読んでくださる方には、もし続編を描くなら、ぜひにネズミとワニのその後も読んでほしいと思っていました。でも、精神的に一時はそういう気持ちになれなくなってしまったんです」

 そして4年が経過した2024年――。きくちさんの元に、一通のメールが届いた。それは、出版社からのオファーだった。

「“異世界モノを描いてみませんか?”という内容で、“え! 僕が異世界!?”と戸惑いつつ、異世界モノは描けないにしても、とりあえず話だけでも聞いてみようと思い、メールをくれた編集者の方に会うことにしたんです」

 すると話は『100ワニ』の続編に及んだ。

「そして話をしているうちに“続編は描かないんですか?”という話になりました。描きたい気持ちに蓋をしていたし、前回、自分の中ではきちんと終わらせたつもりですし、描くつもりはありませんでしたが、それでもネズミやワニの話をしていると、当然、深い愛情もありますし、続編の構想が蘇ってくるんです。それで、“いいきっかけだし、”続編を読みたい“と言ってくれている方もいたし、”描いてみようかな”と徐々に思うようになっていき、ネズミを主人公にした続編を描くことに決めました。だから、その編集者さんとお会いしなかったら続編が形になることはありませんでした。前回は自分が始めたことだったので、自分ひとりで終わらせないとなりませんでしたが、今回は編集者さんらの意見も取り入れつつ描きはじめて、心強さがありますね」