「ここはリアリティないよね」と突っ込まれないための真剣勝負

中谷「小道具もリアルだし、舞台も雰囲気あるというか…。ロケする場所ってどこなんですか」

寺内「廃墟なんかは、廃墟を利用して作られたスタジオの場合もありますけど、実際に人が住んでいる家を借りたりすることも結構あります」

中谷「『イシナガキクエを探しています』で留守電のテープを貰いに行く家も…」

寺内「あれは本物ですね。やはり第一希望は、本当に人の住んでいる家です」

中谷「あと、『オレンジロビンソンの奇妙なブログ』に出てくる昔のパソコンもリアルです。ああいうところは芸が細かすぎます」

寺内「あれは意地ですね。“ここはリアリティないよね”とか突っ込まれるのが悔しいんです。ある意味では観てくれる視聴者さんとの真剣勝負ですよ。努力や根気で戦える部分だったら決して視聴者に負けないぞ、ガッカリさせないぞ、という気持ちで徹底したリアリティを追求するようにしています」

寺内康太郎

中谷「古いビデオの映像もよく出てきますけど、あれは本物を見て作ってるんですか。
テロップの出し方、画面の歪み方、画質まで、かなりリアルに感じます」

寺内「もちろん本物のVHSを見ながら作りました。ただ、人によっては“VHSビデオはこんなに綺麗な画像じゃないはずだ”って感じたりする。実際には、人によって感じるリアリティは違うんです。100パーセント本当でも、本当っぽく見えない事ってあるんですよ。だから100パーセントのリアルがいいのか、あえて演出を入れるのか。‟リアルに見せる“って難しいんです」

中谷「お笑いにも似てる部分はありますね。こっちのほうがウケるけど、ニュアンスとしてはこっちのほうが正しい、こっちのほうがいいんだよなあ…という葛藤があったりします」

寺内「自分でかっこいいと思える作品づくりをしたいじゃないですか。でもそれがウケるとは限らないんです。かっこいいことをやって、そのうえで評価されるって、本当にひと握りの方々ですよね」

中谷「僕は、『怪談』の動画に出てくる雑誌と付録、あまりにも昔よく見た雑誌の雰囲気が出ていてびっくりしました(笑)」

寺内「あれは好きでやってます(笑)」

中谷「タクシー運転手の人も、何年も昔の人の顔に見えましたし」

寺内「僕は、“念を入れれば何とかなる”と思ってるんですよ。
 演技する側も、撮っている側も、本気で思い込めばそう見えてくるんです。普通の映画だったら、撮影する側も観客もフィクションだとわかってつくります。でもQの場合は違う。フェイクと言いながら、あたかも本物のドキュメンタリーのようにしか思えないクオリティを目指しています。だから、‟これは本当だ“という感覚をメンバーで共有する。だから、もしハプニングが起きても、それは本当に起こったことなので、リアルなものだとして受け入れますね」

中谷「ハプニングというと…?」

寺内:「たとえば、ロケ地が思った以上に危険で、それ以上先へ行けなさそうなら、無理して中に入って台本通りに撮影するよりも、暗いからこれ以上先に行けなかったという展開に変えたりします。そのほうが面白いんですよね。現場に行ってみないとわからないことって、結構ありますから」

(つづく)

中谷祐太(なかたに ゆうた)
吉本興業所属のお笑い芸人。阪本匠伍と「マユリカ」を結成し、テレビやラジオなどで幅広く活躍。M-1グランプリ2023」ではファイナリストになった実力派。22歳の時には小学館の新人コミック大賞において佳作を受賞した経験もある。

寺内康太郎(てらうち こうたろう)
映画監督、脚本家。「フェイクドキュメンタリーQ」のメンバー。作品に『境界カメラ』シリーズ、『監死カメラ』シリーズ、『心霊マスターテープ』シリーズなど多数。また、テレビ東京のフェイクドキュメンタリー番組『TXQ FICTION』や『行方不明展』の制作にも携わっている。