大阪芸大在学中に『劇団☆新感線』に参加し、92年、NHK連続テレビ小説『ひらり』で注目を浴び、全国区の俳優となった渡辺いっけい。現在は多くのドラマ、映画、舞台で主演およびバイプレーヤーとして活躍している彼の「THE CHANGE」とはーー。【第2回/全2回】

渡辺いっけい 撮影/イシワタフミアキ

 『ひらり』に出てからは、生活は激変。日本中に僕の名前と顔が知れ渡ったような印象でした。その後はしばらく、テレビの仕事などで忙しくしていたのですが、あるとき、久々に田舎に帰ったら、子供の頃に通っていた剣道教室の先生にバッタリ会って、そこで「渡辺君、初心を忘れるなよ」って言われたんです。

 先生がどういうつもりでおっしゃたのかは聞けませんでしたが、「人生はいろんな波があって、今は調子が良くても悪いときも来るだろうから、初心だけは忘れるなよ」と言われたと僕は感じました。あの頃は周りに、そんなことを言ってくれる人がいなかったから、今でもすごく覚えているんです。

 俳優の仕事は40年くらいやらせてもらってますが、その節々に、そういう忠告などがあったように思います。

 たとえば、亡くなった市川準監督とCMでご一緒させてもらったときのこと。監督に「履歴書の職業欄に役者って書く人は4万人くらいいるけど、その中で役者の仕事だけで食えている人は何百人なんだ。だから、渡辺君はヒエラルキーのとっても上にいるんだよ」って言われたことがありました。 

 役者って、自分で「役者です」って言ってても周りが認めないと成り立たない仕事なんです。呼ばれてナンボなんですよね。

 今の僕は奇跡的に何とか役者の仕事だけで食っているけど、このまま「需要のある役者で長くいたいな〜」とは、ずっと思いますよね。そのためには、やっぱり自分自身が飽きないように、絶えずブラッシュアップは何かしらやっておかないといけないなっていうのはあるんです。

 よく思うのは、役者って水商売だということ。流れる水と同じように、ひとつの所にいられない仕事で、安定なんてない。

 以前は、やっぱり誰が見ても分かりやすいモノじゃないといけないなって思っていたんです。それを僕自身も楽しんでやっていた時期もあったけど、俳優としての閉塞感もあって、それとは違うことを、この7〜8年の間でやりたくなってきたんです。