「映像の世界の熱気は大人の文化祭」それでも歌舞伎で一生を終えたい理由

──ステキですね。

「表現に関しても、歌舞伎俳優たちとは意識が違う。歌舞伎役者は代々やってきていて、そこに当たり前の美学がある。それももちろんすごいことだけれど、映像で関わる俳優さんたちには、“一世一代、これは自分が勝ち取った役だ”というプライドがあるし、一代で築き上げた役者という自分のブランドへの意識がある。その、“自分にしかできないこと”をつかんできた誇りは、すごく美しいと思います。そこには勝ち取ったからには、残らなかった人がいるという意識もちゃんとあると感じますし」

──その通りですが、それにしてもベタ褒めですね。

「で、ここで話が終わったら困るんです」

──というと。

「いまのように感じるのは本当なのですが、歌舞伎に戻ると、“やっぱりここで一生を終えたい”“この村が一番好きだ”と思います」

──なるほど。

「どんな国を、海を渡ろうと、どんなに素晴らしい景色を見ようと、この村に骨を埋められることは、自分にとっての幸せな人生の選択であることに間違いないと感じます。僕は、自分を心のバックパッカーだと思っていて、映像に出て行けば、そこですごく幸せを感じる。置かれた環境が自分にとっての最高の場所だと思える才能にすごく長けていると思います。でもやっぱり、最後は歌舞伎なんです」

尾上右近 撮影/有坂政晴