井浦新さんは現場での配慮が素晴らしい

 こうした生命倫理の世界は、演じてみて前向きに感じ取ることができたのか、あるいは自分とは距離を感じたのかうかがうと、少し迷いつつ、でも丁寧に言葉を選びながら答えてくれた。

「そこはもうせめぎ合いというか、人間ってそこのリミットを超えたいって思うものじゃないですか。もっと先の世界へ、もっと新しい世界へと。次はどうなるんだろう、という感覚は欲望としてあるし。でもそれによって人が傷ついてしまったり、混乱に陥ったり…。この物語でもそこは描かれていますけど、でも絶対にこうだ、という答えみたいなところには導いていないと思うんです。迷いつつ、受け止めつつ、感じつつ…みたいな。でも、私がいざそういうクローン技術を使って延命したいかって言われると、それをしたところで幸せなのか、長く生きたからって果たして自分や周りにとって良いことなのか、というのは考えてしまいますね」

 今作の監督、甲斐さやかさんの世界には以前から心惹かれていて、特にその映像美は「完成を見るのが楽しみだった」というほど。

「(甲斐監督の前作)『赤い雪 Red Snow』でも美しい描写がいっぱい出てきますけど、監督の圧倒的な美的感覚が大好きなので、最初から信じていたというか、絶対いいものになるということを確信していました」

 そして、主演の井浦新さんとは初共演。現場での振る舞いや心遣いに感動したという。

「本当に素晴らしい役者さんで、多分、井浦さんはもう映像になったときに、どういうふうに見えるのかという、その先の先まで考えたうえで演じてらっしゃるんだ、というのを何度も感じました。あと、現場での配慮が素晴らしくて、私が不安になってるとき、すぐ気づいて私の横にパッと来て、寄り添ってくれたり。監督にも寄り添うし。ご自分のシーンだけで大変なのに周りを見てらっしゃって、本当にすごい人です」

 迷いつつも、甲斐監督の描き出すシーンに懸命にぶつかっていったという水原さん。モデル出身ながら、俳優としてのキャリアも14年ほどになった。ただ、演じるということへ思いはその時その時で大きく変化していったという。

(つづく)

水原希子(みずはら・きこ)
1990年10月15日アメリカ生まれ、日本育ち。モデルとしてキャリアを積み、ニューヨーク、ミラノ、パリのファッションウィークでも活躍。『ノルウェイの森』(2010/トラン・アン・ユン監督)で役者デビュー。『進撃の巨人』(2015/樋口真嗣監督)、『奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール』(2017/大根仁監督)ではヒロインを演じた。『あのこは貴族』(2021/岨手由貴子監督)で、第35回高崎映画祭にて最優秀助演俳優賞を受賞。女優としても存在感を放っている。

●作品情報
映画『徒花-ADABANA-』
監督・脚本/甲斐さやか
出演/井浦新 水原希子
三浦透子、甲田益也子、板谷由夏、原日出子/斉藤由貴永瀬正敏ほか
10月18日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
配給:NAKACHIKAPICTURES
©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ
https://adabana-movie.jp/