“役に立たない人がいたっていいんだよ”

荻上監督「そもそも映画ってあってもなくても、もしかしたら生活には支障ないものだったりする。そういう役には立たないかもしれない仕事をしてるんだけど、だからって、なくてもいいのかというと、それはちょっと違う気がしているんです。あっていいし、必要だと思ってくれる人も、もしかしたらいるかもしれない。それは役に立たないということとは、また違うところにある。だから、“役に立たない人がいたっていいんだよ”というのは、今回、入れたかったんです。吉岡さんが『まる』について“タイトルとは裏腹に、まるく収まってない”とコメントしてくださっているのを目にしたんですが、すごいいいコメントだなと。さすがだと思いました」

吉岡「本当にそう感じたんです。今回、監督とお会いして、“わ~!”って燃え動いて蠢いている感情が伝わってきました。スタッフやキャストのみなさんと過ごすときは穏やかですけれど、作品を残す人として、大きなエネルギーを持っている。そのことがビリビリ伝わってきましたし、そのパワーを作品に込めてらっしゃると思いました。それに、そうした作品を残すためのエネルギーって、私の中にもあるなと感じました」

――表現者としてのエネルギーでしょうか。

吉岡「当たり前とか、みんなに求められるようにとか、こうあるべき、といったところを全部取っ払っていかないと、次の場所にいけない感じ。そうした焦燥感のようなものを、日々感じているんです。『まる』は、こうあるべきみたいな殻をバーン!と破って、収まっていない感じがしました。みんなが自由で、愛おしくなりました」

 吉岡さんは、自身のInstagramに「まるく収まろう、まるく関わり合おう、まるく落ち着こう、そういった事とは正反対の”まる”からの脱却、逸脱、と良い意味の裏切りを秘めた作品」と発信。監督の持つその精神が、吉岡さん自身と響き合った。

荻上直子(おぎがみ・なおこ)
1972年2月15日生まれ、千葉県出身。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画制作を学ぶ。2000年に帰国。04年に『バーバー吉野』で劇場映画監督デビューし、第54回ベルリン国際映画祭・児童映画部門特別賞を受賞した。06年の『かもめ食堂』が大ヒット。その他の主な監督作に映画『めがね』『僕らが本気で編むときは、』『波紋』など。最新作は堂本剛を主演に迎えた『まる』。

吉岡里帆(よしおか・りほ)
1993年1月15日生まれ、京都府出身。2016年、NHK連続テレビ小説『あさが来た』の第108話から登場。丸メガネの「のぶちゃん」として一躍注目を集め、翌年放送の『カルテット』(TBS)で一気に知名度と評価を得るとともに、人気を獲得していった。近年の主な出演作に、ドラマ『時効警察はじめました』『しずかちゃんとパパ』『時をかけるな、恋人たち』、映画『ハケンアニメ!』『アイスクリームフィーバー』『ゆとりですがなにか インターナショナル』『怪物の木こり』など。最新公開作に『まる』。待機作に『正体』。2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』への出演も発表されている。

●作品情報
映画『まる』
脚本・監督:荻上直子
出演:堂本剛/綾野剛/吉岡里帆、森崎ウィン/柄本明/小林聡美
配給:アスミック・エース
https://maru.asmik-ace.co.jp/