俳優デビューは『金八先生』の4時間スペシャル

 しかし、留学して2年ほど経った時に大きな転機が訪れる。アキレス腱断裂という大怪我に見舞われたのだ。やむなく帰国し、バレリーナの夢を断念した。

「バレエでは辛く、どうしようもない経験をしました。でも、その後舞台を観た時に“こういう世界があるんだ”という気持ちになることがあったんです。辛い気持ちを忘れられたといいますか、それまで培ってきたバレエでの経験が、この世界だったら活かせるんじゃないかと思ったんです。舞台を観た時に私自身が救われた気持ちになったように、演技の世界でだったらそれを多くの人に提供できる、エンターテイメントの素晴らしさを実感して、それから演技に興味を持ち始めたんです」

 バレエを通して、表現することの苦しさを誰よりも判っていた趣里さん。演技の世界でどれだけのことを表現できるか判らなかったのでレッスンを受けることを決めた。

「『アクターズクリニック』という演技学校でレッスンを受けました。この時、塩屋俊先生に出会ったんです。俳優で監督もされていてこの学校を主宰していた塩屋さんが“お前はやった方がいいから。大丈夫だから、絶対この道が良いよ”って励ましてくださって、そこでやってみようという気持ちになれたんです。実際、やってみて楽しかったというのもありましたし」

 そして2011年にドラマ『3年B組金八先生ファイナル~「最後の贈る言葉」4時間SP』で俳優デビューを果たした。

「もう緊張感しかなかったです。何が何だかわからなかったです。でも、そんな中で金八先生役の武田鉄矢さんがすごく優しく話しかけて下さったので、少しだけ気持ち的に楽にはなりました」

 その後は、NHK朝ドラ『とと姉ちゃん』(2016年)を経て、2018年に公開された映画『生きてるだけで、愛。』に出演。引きこもり状態の寧子とゴシップ週刊誌の編集者で恋人の津奈木(菅田将暉)との不器用な愛を描いた物語だ。本作のヒロイン・寧子を演じた趣里さんはその体当たりな熱演が評価され、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。

「新人賞を戴きましたが、それによって劇的に何かが変わったということはないです。私の場合、毎回その座組の中で、今の自分の状態で、どれだけのことを最大限出来るかという感じです。もちろん、今でも『生きてるだけで、愛。』のことを話していただけることはすごく嬉しいですが。私自身が、その時その時でいただけた役を全力でやれれば……というタイプなんです。だから、“演じたい役はありますか”とよく訊かれることがあるんですど、特には無いんです」

 趣里さんは俳優としての道を粛々と進んでいるようだ。

(つづく)

趣里(しゅり)
1990年9月21日生まれ、東京都出身。O型。2011年に俳優デビュー。2024年映画『ほかげ』でキネマ旬報ベスト・テンにて主演女優賞を受賞。近年の主な出演作は、NHK朝ドラ『ブギウギ』、TBS『ブラックペアン シリーズ』などのドラマや映画『零落』、『愛にイナズマ』(2023年)などがある。

●作品情報
新・月10ドラマ『モンスター』
出演/趣里 ジェシーSixTONES
宇野祥平、音月桂、中川翼 YOU古田新太ほか
毎週月曜日・午後10時~10時54分
カンテレ・フジテレビ系にて放映中
🄫カンテレ
https://www.ktv.jp/monster/