もがき続けた『新・幕末純情伝』と『熱海殺人事件』

『テニスの王子様』2ndシーズンに出演し、その後も数々の舞台作品で活躍する中で、2016年、つかこうへい作品の『新・幕末純情伝』に出演する。きっかけはなんだったのだろう。

「様々な演出家さんと仕事をし新たな可能性を広げたいと考えていた時、『新・幕末純情伝』への出演が決まりました。はじめての“つかこうへい作品”で演出家さんの求めるものや作品が伝えたい本質を理解するのに苦戦していたなか、公演中につかこうへいさんの七回忌の追悼公演があり、筧利夫さんが献花にいらっしゃいました。その日はご挨拶ができなかったのですが、翌日たまたま公演終わりに街で筧さんとお会いしてそのままご飯に連れて行っていただけることに。その後、筧さんが演出の岡村俊一さんに電話をし”味方たちで『熱海殺人事件』やってみたら?“と言ってくださったようで、それが実現して翌年の『熱海殺人事件』の出演が決まりました」

ーー筧さんは『新・幕末純情伝』を観て、味方さんたちを、どうして推してくれたのでしょう?

「なぜでしょうね。『新・幕末純情伝』はNONSTYLEの石田さんを筆頭に、”つかこうへい“と会えなかった僕らとつかさんを知る人たちが良い作品を届けようと、模索しながら作りました。その熱、若さゆえの豪速球と言いますかフルアクセルみたいなものが筧さんに届いたのかもしれません。」

ノンスタ石田との出会いで覚醒

 それまでに形を変えながら何度も上演され、数多くの役者が出演してきた『熱海殺人事件』。味方さんはプレッシャーを感じていたようだ。

「『熱海殺人事件』で僕が演じたのは”木村伝兵衛”は、これまで諸先輩方が繋いできた役。そのバトンをしっかり受け継ぎ、この先へと繋げていきたいと夢中で取り組んでいたのですが、この作品が伝えたいことを理解するのに苦戦する毎日でした。
 それでも千秋楽を終え”木村伝兵衛”というものを少し理解できた気がして、その日の打ち上げで演出家さんに”来年もやらせてください”と直談判しました。それで2度目の『熱海殺人事件』に石田さんが参加してくれたことで、作品にとって大きなエンジンを積むことができました。初年度に共演者から得たもの、新たな共演者から得るもの、そしてこれまでに自分が携わってきた作品のおかげで、2度目の『熱海殺人事件』は自分が大きく変わる転機となりました」

ーー具体的にどう変わったのでしょうか?

「初年度は台詞をただ伝えることに必死だったのですが、2度目は台詞は完全に頭に入っていて、”ここはこの人をこうさせるためにこうしよう” ”あえてアクセル全開でいこう”など思考を巡らせながら、台詞を相手にぶつけることができました。体と脳が自由に使える状態になった気がします」

ーー完全に木村伝兵衛になりきっていた感じでしょうか。

「どうでしょうか。でも、私生活での立ち振る舞いが、知らないうちに大きくなっていたみたいで、仲間内から“なんかずっと怖い” “なんだかデカい”とか言われました(笑)」

 ミュージカルからつかこうへい作品へ。もがき苦しみながら、味方良介という役者は、大きく変化していったのだ。

(つづく)

味方良介(みかたりょうすけ)
1992年東京都生まれ。小学生の頃よりミュージカルへの思いを強め、2011年『恋するブロードウェイ♪』でミュージカルデビュー。以降、さまざまな作品に出演し、12年には『テニスの王子様』2ndシーズンで柳生比呂士役を演じる。16年には『新・幕末純情伝』に出演、翌年には『熱海殺人事件』で木村伝兵衛役を演じ、俳優としての幅を広げた。20年には映像作品に進出し、ドラマ『教場』(フジテレビ系)に出演。近年は映像作品への出演も多く、24年10月期のドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)では、主演の祝左右馬(鈴鹿央士)の親友で刑事である端崎馨役を演じている。