平成の大横綱・第65代横綱の貴乃花光司。1988年、藤島部屋に入門し、1992年の初場所で、史上最年少の19歳5か月で幕内初優勝を達成。兄・若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こした貴乃花のTHE CHANGEとは──。【第1回/全2回】
人生の転機といえば、幕内に昇進したとき、横綱になったとき、力士を引退したとき、親方になったとき、初めて弟子が優勝したとき、相撲協会を退職したとき……それぞれのタイミングでさまざまなことを感じていましたが、やっぱり人生最大の転機といえば、父が親方を務める藤島部屋に入門して、大相撲の世界に入ったときになるでしょう。
入門を父にお願いしたときは、「1週間、考えさせてくれ」と言われました。伯父の花田勝治さん(初代・若乃花)には、他の部屋に預けたいと相談をしたそうです。厳格な父でしたから、実の子に対して他の弟子と同じように厳しく指導する自信がなかったのかもしれません。ただ、自分の子供だからこそ、自分の部屋で面倒を見なければいけないと言われたようですね。
父の部屋に入門するということは、師匠と弟子の関係になるわけで、親子の縁を切るということになります。入門する際に父からは「少しでも上の地位にいけるように、精進するように」との言葉をかけられました。
努力するのは当たり前。結果を求めず365日を一生懸命に生きて、366日目で結果が出れば、まあいいほうだなというのが相撲の世界です。努力をしても結果は出ない、それでも諦めずに努力を続けることが、精進につながります。この精進こそが大事だと伝えられました。
入門後は、もちろん厳しい生活が待っていました。皆、生活のために髷を付けて、力士をしているわけですから。“2代目”と思われないように掃除、炊事、洗濯も人の倍やるようにしていました。正直に話せば、陰湿ないじめだってありましたよ。ただ、私から師匠に言いつけるなんてことはありえません。それが集団生活の掟です。そんな中で、自分が力をつけて、成り上がっていかなければいけない世界でしたから。