新川帆立は、綾瀬はるか主演の『元彼の遺言状』や坂口健太郎が主演した『競争の番人』などドラマ化された大ヒット作で知られる小説家だ。しかし、そのキャリアは尋常ではない。「小説家になる前に、経済的基盤を確保するために弁護士になった」という言葉のとおり東京大学に進学し、司法試験に合格。弁護士として法律事務所で勤務したのち、小説家になった。唯一無二の道を歩んだ理由と「THE CHANGE」に迫る。【第1回/全5回】

新川帆立 撮影/松野葉子

「法律の勉強は好きでしたが、仕事は苦手でした。会社員に向いていないタイプなのだと思います」

 新川帆立さんは24歳のときに司法試験に合格し、2017年、弁護士として大手法律事務所に就職。その後、一般企業に転職するも、デビュー作『元彼の遺言状』(宝島社)執筆時も企業内弁護士として働いていた。だが、新川さん本人はそんな弁護士時代を「向いていなかった」と振り返る。

 その一因として、最新作『縁切り上等!-離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル-』(新潮社)の主人公・松岡紬が向き合う、依頼人である無自覚なDV加害者を例にあげ、話す。

「いい弁護士さんは、たとえ依頼人の主張が歪んでいたとしても、切り捨てないんですよね。その人にはその人なりの理屈があって、その人の解釈では一本筋が通っているから。そういった依頼人の場合、勝ち負けとは違ったベクトルで、その人にとって一番いい解決法があるんです。

 そこに至るまで依頼人と並走する先生のことを、すごいな、偉いな、と思って見ていました。依頼人に寄り添うことができる弁護士は、かっこいいです。私はどうしても疲れてしまうから、そういうことが向いていませんでした」