極度の疲労と凍てつく寒さで意識を失い走馬灯を見た 

「僧侶の修行を終えて山を下りる時でした。走馬灯を見たのです。これまでに私が看取ってきた動物たちがたくさん出てきました。走馬灯というのは死ぬ間際に見るものだと思っていましたので、私はこれで死ぬのかと……」

 走馬灯とは、ただ事ではなさそうだ。横田さんはその時の状況を詳しく説明して下さった。

「御前様からは止められたのですが、修行寺から托鉢しながら帰ったのです。私は上山する時から歩いて帰ることを決めていました。その日は寺を出る時から強風が吹き荒れていて、夕方からは大雨となり私の衣は下着に至るまでずぶ濡れでした。その道すがら、道路に倒れている猫を見つけたのです。下山して初めて上げるお経が交通事故で亡くなった猫となったのです。

 白茶の猫は冷たく濡れていて、せめて布でもかけてあげようと思ったものの、持ち合わせがなくその場を立ち去りかけました。しかし私は、修行寺から頂いた安吾証明書を胸元に収めていました。大事な証書なのでタオルで包んでいたのです。いかに大事とはいえ、証書はただの紙切れです。これではいけないと思い直し、戻ってそのタオルを巻いてあげました。私は、この猫によって囚われのない禅宗の僧侶にさせてもらったと思っています」

 その後、雨は雪へと変わり、凍てつく寒さの中、横田さんは極度の疲労のため道端に座り込みそのまま眠りに落ちてしまったのだそうだ。

「走馬灯を見たのはこの時です。朦朧とした意識の中で、これまでに私が出合い、看取ってきた多くの動物たちが現れました。10歳の時に死別した猫のミク、自殺を思い止まらせてくれた片目の猫、そして先ほど看取った白茶の猫も出てきて、寝てはいけない、死んでしまうよと、私に語りかけるのです。おかげでなんとか意識を取り戻した私は、そこから長福寺までの約30時間、お経を唱えながら一度も休憩せずに歩き続け、無事に寺まで辿り着けました」

 小中学時代に受けたいじめによる自殺未遂、修行寺からの帰路に極寒の中での臨死体験。この2回の生命の危機は動物の不思議な導きによって乗り越えることができた。僧侶となった横田さんは、いまも多くの動物たちの命と真摯に向き合い続けている。

 

横田 晴正(よこた はるまさ)
1971年生まれ。東京都出身。27歳で出家し、2001年に新潟県長岡市でペット霊園ソウルメイトを設立。2013年に東京都杉並区に東京分室を開室。ペットのお坊さんとして葬儀・火葬・供養・パラカウンセリングを行い、人のお坊さんとして曹洞宗長福寺の壇務を行なっている。『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ)をはじめ、多くのメディアに出演。ペットロスをテーマに、人と動物との絆について講演、執筆活動を続けている。著書に『ありがとう。また逢えるよね。~ペットロス心の相談室~』がある。