ピン芸人になりたい奴なんて、ほとんどいないと思う

 はやともさんは当時のことを「最初の挫折だった」と振り返る。

「ピン芸人になりたい奴なんて、ほとんどいないと思うんです。いまピンで売れている人って、ゆりやんレトリィバァさん、横澤夏子さん、ケンコバさんとハリウッドザコシショウさんはコンビだったし、解散してひとりでやったらハマったタイプばかりだと思います。
 それに、ピンになるとM-1キングオブコントで優勝できなくなるし、R-1グランプリなんて誰も観ていないじゃないですか。ある意味、王道のお笑い芸人として売れることを諦める、ということになる。だから僕にとって、ピンになる=挫折、だったんです」

「芸人に向いていないのではないか」、そう挫折感を味わいつつも、コンビ時代はNSC最下位クラスに所属していたが、ピンになったとたんに上位クラスに昇格した。それでも自身で「向いていない」というマイナス思考に追い打ちをかけた出来事もあった。

「若手劇場『ヨシモト∞ホール』にはピラミッドシステムがあって、最初は最下層からスタートするんです。上位にコンビ芸人がひしめく中、ピンで打ち勝つのはかなりの天才じゃないとキツイな、と思っていたんですよね。でも、横澤夏子さんがピラミッドの1位になったんです。下にはニューヨークさんや鬼越トマホークさん、オズワルドさん、ユニバースさん、令和ロマンさんとか錚々たるメンバーがいて、その上に横澤夏子さんが立って、すごくかっこよかった。そんな光景を見ればみるほど”俺は向いていない”と思いました」

 ピラミッドは高かった。「2番目には行けたけど、どう計算しても1番上に行けるとは思えなかった」と、芸人引退を本格的に考え始めた。

「もう辞めよう、と思いました。そんなときにたまたま、僕の霊感を『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)のプロデューサーさんが見初めてくれて、番組に出してくれて。ある程度世間様に知っていただけたんです。心霊ネタはやりたいことではなかったけど、このとき僕は一度は死んだ身だと思って、プライドも自尊心もない状態だったし、”受け入れてもらえるなら、これでいこう。やれるところまでやろう”と心を決めたんです」

ーーいまのスタイルは、やりたいことではなかったんですか。

「まったくやりたいことではなかったです。ただ、“自分がやりたいこと”が“世間が自分に求めること”かどうか、そこにギャップがある。そんな、みんなが20代前半で気づくことに僕は30歳手前でやっと気づけたんです」

 芸人としては不本意だったという“視えすぎ”芸。だがいま、すっきりとした表情で語るはやともさんを見ると、その選択に間違いはなかったのではないだろうか。

(つづく)

シークエンスはやとも
1991年7月8日生まれ、東京都出身。吉本興業所属の“霊が視えすぎる”芸人。小学3年の時、凶悪事件の決定的瞬間を目撃したのを機に、幽霊と生き霊がキャッチできるようになる。 デビュー後、iPadで解説する「生き霊チェック」が評判を呼び、芸人仲間から超人気アイドルまで楽屋に行列するように。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など多くのバラエティー番組で注目される一方、YouTubeでも人気を集め、『シークエンスはやともチャンネル~1人で見えるもん。~』は登録者数40万人を突破。「心霊に恐怖する時代は終わった」を合い言葉に、霊を知ることで見えてきた幸せな生き方をわかりやすく伝授している。10月17日に最新著書『憑いてる人は痩せません 生き霊「お祓い」ダイエット』を上梓した。