新川帆立は、綾瀬はるか主演の『元彼の遺言状』や坂口健太郎が主演した『競争の番人』などドラマ化された大ヒット作で知られる小説家だ。しかし、そのキャリアは尋常ではない。「小説家になる前に、経済的基盤を確保するために弁護士になった」という言葉のとおり東京大学に進学し、司法試験に合格。弁護士として法律事務所で勤務したのち、小説家になった。唯一無二の道を歩んだ理由と「THE CHANGE」に迫る。【第4回/全5回】

新川帆立 撮影/松野葉子

 デビューしてから3年弱、弁護士を休職し、執筆に専念してから2年半、「小説を書く楽しさと、大変さ、その営み自体は変わらない」と話す新川帆立さんだが、昨年、心構えが大きく変化した出来事――「THE CHANGE」があった。

「去年の文学フリマ(※)に出店したときのことです。私に会いに来てくれた読者さんがいらっしゃいました」

 女性は新川さんと同世代で、母をともない、車椅子に乗っていた。新川さんと対面すると、涙ながらに身の上を語ってくれたという。

「もともと読書が好きだったのに、目が見えにくくなる病気にかかってしまったそうで。“読書の趣味を諦めるしかないのか”と悲観的になっていたところ、私のデビュー作の1ページ目を読んで、こう思ったそうなんです」

「この話の続きが読みたい」彼女はそれを原動力に、目の治療に励んだ。そしていま、読書の趣味を続けているという。今年も文学フリマに出店すると、彼女も再び来訪。最近はアルバイトを開始して、同行する母親の旅費まで捻出したという近況を教えてくれたという。