自身も画家としての一面があるからこそ、映画『海の沈黙』で演じた画家役が生きる
──『海の沈黙』では画家・田村役でしたが、石坂さんご自身も油彩画で二科展に入選されるなど、絵画にも精通しています。田村を演じるにあたって、どういったことを意識したり、ご自身との違いを感じていきましたか?
「画家としての作品自体が私の作風と全く違いますが、今回は現場で考えることがありましたね。台本ではどんな絵を描くのか分かりませんから。現場で見て、“これか”と。“そうか、こういう絵を描く人か、なるほど”と」
──今回は絵が大きな手掛かりに。
「これが田村って人だった、と。それに、最初は1枚の絵を見て、“これ一筋で来たのかな”と思ったんだけど、展覧会があるということで、頭から並べられた絵を見ていったら、昔はもうちょっと具象的なものを描いていて、そこからなるほど、こうなっていったのかと、改めて分かっていった。だから現場で実際の絵を見てものすごく変わりました」
──本作では“贋作”がテーマのひとつとして語られていきます。派生しますが、しばしば役者業に関して、“ホンモノ”の役者、といった形容がされます。ホンモノの役者とは、なんだと思われます?
「昔はよくそういうことを言って、殴り合ったりもしましたけどね(笑)。いまの俳優さんは平和的みたいですけど。そういう談義をした仲間はみんなもう死んじゃいましたが、“おまえはほんとにしゃーない”とか、言い合ってましたね。ホンモノじゃないとか軽々と言うんですけど、でも正直、まだ私にも分かりません。ホンモノというものがあるのなら、偽物もあるわけですよね。でも役者ってニセですから。役者にホンモノも偽物もないと思います」