「みんな何かしらの演技、芝居にどっぷりと浸かっている」日々“芝居”に触れる機会が多い現代

──キャリア60年を超える石坂さんが考えても、役者にホンモノも偽物もない。

「そうですね。それと私はテレビから出てきた役者ですが、一般にまだテレビがあまりないころで、生放送で芝居をしてました。そうすると“芝居をする”“芝居を見る”ということが、自然ではない感じがあったと思います。
 でもいまは、芝居を毎日見てますよね。お笑いでも芝居だし、みんな何かしらの演技、芝居にどっぷりと浸かっている。だから、ふっとカメラが回ったとして、自分自身が映像の中に入ること自体にも抵抗がないと思います」

──自分が映像に入ることへの抵抗がない。

「歌をやってる方もそうだし。いまの方は芝居に触れる機会が多いから、そこに行く道は早い。逆にいうと、芝居に入ることにうずうずしているようなことなしに、ポンっと簡単に入れる部分はあるかなと思いますね」

──自分自身で撮ってネットにあげて、世界に発信することもできますし。

「YouTuberになって有名になって語るとかね」

──だからこそ、人の心を動かす、俳優さんたちのお芝居は“特別”なのかなと。これも難しい話で、なんだかドツボにハマってきましたが(苦笑)。

「それも作品によりますから。好きな役者さんが昔いて、その人の出るものを必ず見るようにしてたんですよ。でもあるとき、つまらない作品に出たら、その人の芝居もダメでした。“なんでこんなのに出ちゃったの”と思っちゃった」

──(苦笑)

「その役者さんだからって、全て感動できるというわけでもないんですよ。素晴らしい役者さんで、本当に上手いなと思っていても、違う作品ではそうでもなかったりする。だから、自分もそうしたことに陥ることがあるかもしれないと気を引き締めていますけどね」

 常に自分自身にも厳しい目を向け返せるからこそ、第一線に立ち続けられるのだろう。

石坂浩二 撮影/有坂政晴

いしざか・こうじ
1941年6月20日東京都生まれ。慶應大学在学中の1962年にテレビドラマ『七人の刑事』(TBS)でデビューし、卒業後に劇団四季に入団する。TBSテレビのプロデューサー、石井ふく子に見いだされる。NHK大河ドラマに『天と地と』『元禄太平記』『草燃える』3作品で主演。2025年『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で大河ドラマ12作目の出演が決定している。市川崑監督とのコンビでもよく知られており、特に『犬神家の一族』(1976)の金田一耕助役は高い人気を誇る。近年では倉本聰脚本による主演ドラマ『やすらぎの郷』(テレ朝系)が好評を博した。ほか近年の主な出演作に、ドラマ『相棒』(テレ朝系)シリーズ、『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)、映画『変な家』(2024)、最新作に『海の沈黙』。

作品情報
映画『海の沈黙』
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
出演:本木雅弘、小泉今日子、清水美砂、仲村トオル、菅野恵、石坂浩二、中井貴一
配給:ハピネットファントム・スタジオ